なぜ「ほぼ日」に興味を持ったか

 そもそも私がインターンに応募したのも、「ほぼ日」が組織として存続していくことを重視し、質の高いコンテンツを作り続けるための組織化を意識的に行っていることに興味を持ったからだった。

 たとえば、私はスタジオジブリのアニメーション映画が好きな人間の一人だが、以前から周りの友人たちとは違うところが気になっていた。制作の裏側、「制作秘話」などよりは、「監督はどこまで権限を持って他人の絵を修正するのか」「プロデューサーは制作の過程で、いつ、どう監督にコメントするのか」「人間同士の関係性が、作品にどういう影響を及ぼすのか」「次世代の人材をどうやって育成するのか」……などに興味をひかれる。

「制作者がそれぞれの個性を発揮して制作することと、組織としてそれを持続させていくことは、どのように両立可能なのか」。誤解を恐れずにいえば、そういった問いがいつもどこか自分の頭にあった。もちろん実際には、もっとぼんやりとして凡庸な「ずっとジブリが続いていってほしいなあ。しかし、難しいのだろうか」という願望に近い興味だったと思うが、根幹は共通している。

 だから、メディアで糸井氏や社員が、コンテンツをチームでつくる仕組みについて試行錯誤した経緯や、組織について語るのを読んだとき、内部を見てみたいと直感的に思ったのだ。そんな折にインターンの募集がかかったのは、幸運な偶然だった。

 だが上にも書いたように、はじめは募集されていた「事業の振り返り」という、社内のプロジェクトがどのように実施されたのかを調査する業務には、結局就けなかった。なにはともあれ、社内で一緒に仕事をさせてもらえるのだから多少は様子も分かるだろう、と快諾して、結果を報告し終わったところ、予想外に「では次は……」と言っていただいたのである。

 ただし、糸井さんからの依頼は、冒頭の一言以外になかった。補助的に管理部門の部長から、その人自身の問題や関心が「ほぼ日」が組織としてどのように振る舞っているかを言語化することだ、と伝えられた程度だった。その意味で、これはかなり風変わりな依頼だった。

 考えてみてほしい。「その動機のあることを、やりましょうか」以外に依頼の内容がないのである。あえて言外の言葉を継ぐことができるとしたら、「あなたがおもしろいと思ったことについて、調べてみてください」、そして「おもしろいことがわかったら、報告してください」ということで、それ以外に要望はない。そして、これが一番恐ろしいことだが、依頼された当人も、依頼人もアウトプットがどうなるか、具体的な予想がついていないなかで、ボランティアでも個人の自由研究としてでもなく、仕事として依頼が成立したのである。

 振り返ってみると、この仕事の成立自体、「ほぼ日」の組織内における新規プロジェクトのつくり方でもあった。この組織において、プロジェクトは、まずは個人の「動機」から始まるとされている。個人の「おもしろい」や「好き」、「ほしい」といった気づきを出発点として、「何がやりたいのか」、そして「なぜやりたいのか」を社員同士で問い続け、その過程で気づきを深く掘り下げることで、個人の中に芽生えた種を、より多くの人に届くコンテンツや商品に昇華させる……そうしたやり方で、この組織は企画をつくっている。

 そういう意味では、この突然の依頼から始まることになった10ヵ月間の調査も、同じ経過をたどった。冒頭の糸井さんの言葉にあった「動機のあること」とは、そのことを指している。ただし、それを組織の外の人間に対しても同じ方法でやるか、というのはまた別の問題である。普通なら、しない。こういった方法が一般的には取られないのは、端的に言って不確定要素が多すぎるからだ。

 たとえば経営コンサルタントは、同じように、ある程度、探索的な調査が期待されるが、その場合は「利益を上げる」「コストを削減する」「問題を発見して、解決する」というように結果に予見性の高い出口がある。しかし、「おもしろいことを見つける」とは、すなわち社員が発見していない興味深いことを発見することで、出口においても自由度が高い。

 それでも社内の人間であればまだ、それまでの経験からアウトプットに対する予期と達成に対する信頼はある程度担保されるものの、外部者の場合には、そうした担保もない。公募に応募したことからもわかるように、もともと私自身は「ほぼ日」に縁はなかったので、人を介した信頼の保証などもなかった。3ヵ月の間、従事していた分析の仕事は、今回の調査とは必要な技術も随分と異なっていた。唯一、私自身が社会学を学んできたために、内部者とは異なる視点で組織を観察し、言語化することができるかもしれない、ということはインターン面接のときに伝えていたが、逆に言うとそれだけである。

 だから依頼を受けた者としては、通常受けない種類の信頼の束をポンと渡された状態で、出口も具体的には決まっていないまま、とにかくやってみるしかない、という心境でもあった。

 そして、プロジェクトが終わった後で思うのは、一見不確定要素が多すぎるこの依頼方法が、今回のような調査の場合、おそらく最も効率よくアウトプットを引き出すやり方だったのだということだ。それに、糸井さんとしては、インターンのときから私を担当してくださっていた管理部門の部長が、何かあったとしても、どうにか仕事として成立させるだろうという読みもあっただろう。その意味でこの調査は、窓口となってくださった管理部門の方々の協力のもとに出来上がってもいる。

 この一見した突拍子もなさと、その実、ある種の計算がなされているという二重性が、「ほぼ日」の組織としての一側面を垣間見せてくれる。