マクロンはオランドの側近としてアドバイザーを2年間務めたのち、オランド政権下で経済相をさらに2年間務めた。これらの職務においてマクロンは、企業を優遇する形で経済政策を転換する大きな責任があった。その後、フランス経済をもっと抜本的かつ急速に変革するうえで直面した障害に業を煮やした彼は、ついにみずから政治運動を立ち上げて大統領選への出馬を決めたとされているが、それ以前に彼自身に責任があるのだ。

 彼は現在、企業に対する規制と制限の緩和を目指しているが、従業員の権利や既存の社会福祉を削らずにそれをやると言う。政府の財政赤字の削減を掲げているものの、同時に、いくつかの分野で公共支出を増やし、企業と従業員に課されるさまざまな税金と社会保険料を減らすとも言っている。これらの相反する目標を両立するには、政府支出を600億ユーロ削減する必要があるはずだが、それについてはほとんど言及していない。

 マクロンは大統領就任後、彼の経歴から予想されるよりも、さらに大胆な市場志向型の改革を推し進めようとするだろう。さもなければ自分はオランド政権のように失敗に終わる、という恐れがあるからだ。しかし、6月の議会選挙後は、彼の政治的駆け引きの余地は非常に限られたものとなりそうだ。

 なぜなら実際的な問題として、マクロンは安定した政権の確立に非常に苦労すると思われるからだ。マクロンの政治運動母体である「アン・マルシェ(前進)!」は、すべての選挙区に候補者を擁立する予定だが、現職の国会議員は1人もいない。彼の宣言によれば、立候補者の半数は、過去に政党議会政治の経験がない「市民社会」のメンバーとなる。このようにゼロからスタートして、議席の過半数を勝ち取るとは思えない。

 あるいは、レーム・ダック(死に体)の大統領となるのを避けるには、議席の過半数を獲得しなければならず、そのためには左派の社会党や右派保守の共和党から穏健派議員を取り込む必要がある。そのような集団が、過半数とはいえ安定的で堅固な状態を維持するとは考えにくい。特に、初期の蜜月期間の後に、もし世間が経済政策の結果に失望し、それに応じて国会議員のマクロン支持の動機が低下した場合にはなおさらであろう。

 今回の選挙では、立候補者ほぼ全員が、深刻な不満を抱いている有権者をなだめるために、「体制」あるいは「既成勢力」に対抗しているというアピールを余技なくされた。ところがそれとは裏腹に、フランス国民はマクロンという現状維持派を選択するようだ。彼の政権が失敗すれば、現状に対する不信はよりいっそう高まるだろう。そして国民からは、主流の左派、右派、中道の政権が相次いで失敗に終わったと判定される。

 となれば、今回のル・ペン敗北はほぼ間違いないものの、次回2022年の選挙では彼女の国民戦線の勝算がさらに高まるかもしれない。


HBR.ORG原文:How a Macron Presidency Could Fuel More Nationalism in France  April 24, 2017

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ダグラス・ウェバー(Douglas Webber)
INSEAD(インシアード)の政治科学教授。