移民を国の成長力に変える

 では、日本はいかにして米国との格差を埋めればよいのだろうか。

 労働人口の増加を必要とする先進国のほとんどが選択する政策は、移民の受け入れである。日本で「移民」と言うと、いまだに「3K(きつい、汚い、危険)」や「期間制限」という単語を連想する人が少なくないだろう。このような移民の捉え方は、高度経済成長時に労働力が不足した、1960年代の旧西ドイツによる政策を思い起こさせる。

 戦後の日本では、農村から都市部への人口移動によって、産業発展に必要な労働力を補うことができた。しかし、高度経済成長期のドイツの場合、そのような産業労働力予備群は極めて少数であった。

 当時、西ドイツ政府はその労働力不足を一時的な現象であると考え、これを短期的に補う政策として移民を招いた。そのため、移民労働者に永住権を与えることはなく、また、彼らの仕事は主としてドイツ人が好まない分野に限られていた。

 この政策は、短期的には労働力不足の解消に貢献した。だが、予想に反して多くの移民がドイツに留まった結果、長期的にはさまざまな社会問題を生じさせた。その一つに、長期失業者を生んだことが挙げられる。彼らの多くは十分な教育機会を得ていない人々であったため、長期間滞在していながらドイツ語を理解しておらず、その後の産業構造の変化についていくことができなかった。

 これは、移民問題を考えるうえで大変重要な事例であろう。実際、ドイツは現在、それを受けて、高学歴移民を受け入れる方向に切り替えようとしている。

 このような政策を早くから導入していたのは、移民受け入れ国家として歴史を持つ、カナダである。同国による移民の受け入れ方法は、経済論からは二つのレバーを利用していると評価できる。これを「労働投入量×生産性」の数式に当てはめると、双方の要素が相乗効果を生み、総生産がより向上するということになる。加えて高学歴の移民は語学の取得が早く、異なる社会や文化に対する理解も進みやすいという利点もある。

 カナダでは、移民の選択方法として、1967年に導入した100点満点の評価システムを採用している。これは、「言語能力」(28点)「学歴」(25点)「勤務経験」(15点)「年齢」(12点)「カナダ企業での就職先の有無」(10点)「適応能力」(10点)という6つの項目に基づいている。なお「適応能力」は、カナダへの留学経験、配偶者の言語能力、カナダ居住の親戚の有無などの要素によって評価される。

 仕事の有無が採点要素の1割に過ぎないのは意外に思えるが、収益率が低く競争力の弱い企業にとって「都合のよい労働者」、つまり低人件費の移民の増加を防ぐためであろう。さらに、わずか3年の滞在でカナダ国籍の取得を可能にしているが、これは高学歴で言語能力のある人材を招くための動機付けと考えられる。

 この国の移民政策も、その初期にはさまざまな問題を抱えていた。国民が求める国のあり方と時代の変化に対応して現在の政策があることも合わせて記しておきたい。なお、経済成長を続ける多様性のあるこの移民国家は、現在人口の2割超が国外出身者である。

日本人は本当に移民を拒絶しているのか

 バブル崩壊後、日本人は自信や希望を失ったかのように見える。しかし、多くの日本人を意気消沈させているGDPの数値を詳細に読み解いていくと、先に指摘したように、日本経済の問題の本質は生産性の低下ではなく、決定的な労働力不足にあることが理解できる。

 その解決策として何年も前から議論されているのが、移民政策である。だが日本では、移民受け入れに対する拒絶反応が根強く、この政策は行き詰まったままだという。なぜ日本人は移民を嫌うのか、そして、移民受け入れ拒否は本当にそこまで強烈なのか。この点に関して、その実像を探ってみたい。

 移民反対の理由としてしばしば取り上げられるのは、外国人の増加による治安の悪化と、欧州の難民問題とリンクして語られるテロの脅威である。治安の悪化について見ると、日本に居住する、あるいは訪れる外国人の数はともに増加しているにもかかわらず、外国人犯罪数は、平成16年から平成17年をピ-クに減少しているのが実態である[注1]

 すると、治安の悪化を招くのは、新たにやってくる移民ということであろうか。

 日本では移民と難民が同義語として語られるため、移民=貧困=治安の悪化というイメージが既成事実として流布しているように思われる。このような移民観については、私自身も経験したことがある。あるとき、日本人に「私はスイスに住むドイツ移民です」と言ったところ「違いますよ。あなたを移民とは呼びません」と言われたのだ。私はその反応に「あなたは難民ではないでしょう」というニュアンスを感じ、日本人の移民観に疑問を抱くきっかけとなった。

 たしかに、移民と難民には重なる部分もあるが、異なる意味を持つ。しかし日本ではいまだに、移民は途上国の経済的困窮者が選択する就労の手段という、歴史的背景に基づくイメージが一般的である。

 外国人に対する感情は、これまでの日本人の外国人との関わり方も関係しているのだろうか。日本の外国人居住者は人口の約2%であるが、特別永住者を含む韓国人、中国人がその半数を占める[注2]。彼らを含め外国人の多くが、首都圏、大都市、産業都市に居住していることを考えると、その他の地域に住む日本人が外国人と個人的に関わりを持つ確率は極めて低くなる。人間は未知なる存在を恐れるという。ドイツでも、外国人排斥派が多いのは外国人の少ない地域である。

 ここまで、日本人は移民受け入れを拒否しているという前提に立ち、その理由を否定的移民観と外国人との接点の少なさ、という仮説から考えてきた。しかし、日本国際交流センターが2015年に自治体に対して行ったアンケート調査では、急激な人口減少が進む地域では「移民政策の必要性が認識されている」[注3]と、上記の仮説とは異なる報告がなされている。

 自治体の認識は住民の意思を反映したものなのか、それとも人口減少の深刻さを示す自治体としての回答なのかは不明である。また、同年行われた朝日新聞の調査では移民受け入れ賛成が51%[注4]、読売新聞の同様の調査では38%、20代に限ると50%が賛成という結果が報告されている[注5]。これは、日本人の移民拒否はそれほど強いのだろうか、という疑問を投げかける結果である。

 インターネット上では、国民の大多数が受け入れ反対であるかのような調査結果を報じるサイト[注6]もある。ただし、ウェブ調査には参加者の自己選別による偏りがあることを考慮しなければならず、信頼性に疑問が残る。

 先に示した移民受け入れ反対のもう一つの理由は、欧州の難民問題とテロの脅威を、移民政策と直接結びつける考え方である。しかし、欧米におけるテロの根本的な原因は、イラクに介入する米国と同調する英国、旧植民地に政治介入を続けるフランス、米国のアフガニスタン攻撃に参加したスペイン等、国家の外交政策によるものであろう。移民政策は利用されることはあっても、その直接的原因ではないことを認識する必要がある。

 以上が、日本人の移民拒否の実情についての考察である。そこから見えてくるのは、移民の拒否と受け入れに揺れ動き、いまだ判断を決めかねる国民の姿である。それは、移民が、政治、宗教、文化、言語、そして治安など多くの問題と関連があるために、二者択一の選択を迫られた人々が、その判断を躊躇している姿の反映なのであろう。

 最後に「国への帰属意識」というテーマで行われた国際比較調査(ISSP2013)[注7] について触れておきたい。この調査では、日本は先進国の中で移民受け入れに寛容な国、という日本像が示されている。

 NHK放送文化研究所は、この結果は日本における圧倒的な移民の少なさが背景にあるとしている。つまり、移民受け入れについての寛容さは、日本の非排外主義を意味するものでない、という指摘である。また、排外的意識に影響するのは、各国とも外国人人口の多寡ではなく、国を構成するメンバーの「純粋性」に関する認識である、としている。これは、移民政策による社会の分断や排外主義の広がりを考えるうえで、日本人が「日本人とは何か」という問題を考える必要がある、という示唆と受け取れる。

日本の未来像を考える

 内閣府は、2014年、毎年20万人の移民受け入れ構想を発表した[注8]。しかしその後、安倍首相は高度外国人材の受け入れ促進を語りながら、移民政策は毛頭考えていない、という発言を行った[注9]

 これは一見矛盾するが、日本人の移民観を意識した遠回しの移民政策の表明であったのだろう。だが、日本人が、活力溢れる経済成長を続ける国家を望むのなら、政府は正面からこの問題を世に問うべきではなかろうか。すなわち、矛盾と混乱を抱えた移民観が蔓延する現状を踏まえて、外国人労働者に対する共通の認識を構築し、彼らとともにある社会の姿を描く必要がある。

 この国の新しい未来像は、政府が、確固たる理念を持つ移民政策と明確な方向性を国民に打ち出すことで、初めて見えてくるのではなかろうか。

[注1] 法務省 平成28年版 犯罪白書、第4編、第8章 外国人犯罪・非行、第2節 犯罪の動向 1刑法犯: 図 4-8-2-1 外国人による刑法犯 検挙件数・検挙人員の推移、2特別法犯:図 4-8-2-4 外国人による特別法犯 送致件数・送致人員の推移
[注2]法務省報道発表資料、平成28年6月末、確定値公表資料 [PDF]、第1-1図:在留外国人数の推移(総数)、平成28年6月末のグラフにおける230万人強を総人口比から概算
[注3]公益財団法人日本国際交流センター、人口減少と外国人の受け入れ構想プロジェクト「多文化共生と外国人受け入れ」に関する自治体アンケート2015報告書、アンケート調査報告書 [PDF]:p.26、(5)移民、難民の受入れについて
[注4]朝日新聞デジタル、朝刊〔東京〕2015年4月18日 土曜日: 7面 総合5
[注5]読売新聞(YOMIURI ONLINE)、特集「政党」「人口減社会」:2015年7~8月郵送全国世論調査
[注6]MAG2NEWS 2015.03.11、 80%以上が移民受け入れに反対! アンケートで明らかになった日本の課題:まぐまぐイエスノー世論「日本は移民の受入れを積極的に行うべきか?」アンケート
[注7]NHK放送文化研究所~ISSP国際比較調査「国への帰属意識」から~、国への愛着と対外国人意識の関係世論調査部 村田ひろ子、 公開2017年3月1日(「放送研究と調査」2017年3月号掲載)[PDF] p.62~63、p.65)
[注8]内閣府、第3回会議資料 選択する未来」委員会、平成26年2月24日、資料1 目指すべき日本の未来の姿について(内閣府事務局資料)[PDF]:図Ⅰ-4.選択する未来像①-人口、(備考)4.移民受け入れケースは、2015年以降、毎年20万人移民受け入れると仮定して推計
[注9]第192回国会 環太平洋パートナーシップ協定等に関する特別委員会 第4号 会議録