AIの有用性を疑っているわけではない。私は、キャリアのすべてをこの分野に費やしてきた。懐疑的どころか、熱狂的な信奉者である。

 その一方で、企業がAIを有効活用するには、何より事業目標の達成に集中する必要があると考えている。競争に勝つために「AI戦略」に飛びつき、戦略を推進する技術的スキルを持った人材を採用するのは、今日のトレンドに合っているように思えるかもしれない。だがそれでは、現実を見ていないことになる。イノベーション戦略は、実際の事業課題と目標をしっかり理解して初めて成功する。AIを活用するためには、企業の目標を原動力とすべきなのだ。

 これは、最高AI責任者を採用したからといって実現できることではない。彼らは与えられた職務の性質上、目に入る限りの課題というクギを、AIというハンマーで打ちつけようとする。高学歴で高給取り、しかもモチベーションも高い彼らは、課題を解決するためではなく、AIを有効活用するという目標を達成するために、それを使える場所を社内の隅々まで探そうとするだろう。

 むろん、AIを理解している人材は不要だという意味ではない。当然ながら、そういう人材は必要である。ただし、テクノロジーを理解することと、企業のために戦略的に何ができるかを理解することは、まったくの別物なのだ。AI責任者を採用したところで、社内の技術担当と戦略担当の間の円滑なコミュニケーションの代わりにはならない。

 最高AI責任者を採用する代替案として、問題解決に取りかかるといい。AIソリューションの検討を、実際に解決すべき問題に向き合っている社員の手に引き渡すのだ。AIソリューションがどんな場面に適するかを検討するフレームワークがあれば、彼らは実際にそのソリューションをどこに適用できるかを提案できる。幸いにもこのフレームワークは、技術そのものが持っている性質から直接得ることができる。我々はすでに、AIがどんな場面で有用で、どんな場面で時期尚早なのかを知っているからだ。

 そこで問題となるのは、データとタスクである。

 たとえば、広く認知されたスキーマを持つ、従来型のデータベースの高度に構造化されたデータは、きわめて分析的な機械学習のアプローチと相性がよいことが多い。10年分の取引データを所持している場合には、機械学習によって顧客層と製品との相関を明らかにすべきである。

 膨大だが特徴の少ないデータセット(画像や音声など)には、深層学習(ディープラーニング)技術が最適だ。工場の作業場で、機器が発する音を利用して問題発生を予測する深層学習アプローチは理にかなっている。

 一方、テキストデータしか所持していない場合、データを抽出して感情を分析する技術や、根拠に基づいた推論をするワトソンのようなアプローチが有効だろう。人事管理の模範事例マニュアルに基づき、知的なアドバイスを自動化するケースはこのモデルに該当する。

 事業の現状と実績のレポートを支援するデータがある場合には、自然言語生成が最適な選択だ。読みやすい言葉で書かれたレポートを機械で作成してEメール配信できるのなら、アナリストが販売データの分析や要約に貴重な時間を費やす必要はない。

 社内の意思決定者がこの点を理解していれば、自社の抱える問題と社内で培ってきたデータを照らし合わせ、最もふさわしい認知テクノロジーを判断することができる。

 その際のポイントは至ってシンプルだ。AIは魔法ではない。特定のテクノロジーが特定の機能をもたらし、特定のデータを必要とする。それを理解するために、魔法使いやユニコーンを雇って対処してもらう必要はない。すなわち、最高AI責任者は不要なのだ。必要なのは、技術的ソリューションの知識を持つ人材に、現場の課題をうまく伝えられるチームである。

 今日のAIテクノロジーは驚くほど強力だ。これが企業に導入されたら、何もかも一変する。社内にはびこる本当の問題を解決するためにAIを使うことに注力すれば、人間と機械による新しいタイプの関係が築かれ、我々は最高の仕事をして潜在能力を最大限に発揮することができるだろう。


HBR.ORG原文 Please Don’t Hire a Chief Artificial Intelligence Officer March 29, 2017

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クリスチャン・ハモンド(Kristian J. Hammond)
ナラティブ・サイエンス社のチーフ・サイエンティストで、ノースウェスタン大学コンピューター・サイエンス&ジャーナリズムの教授。