私はこの問題について、ハーバード大学で教鞭をとる同僚のジャック・スペングラーとピアーズ・マクノートンとともに、シラキュース大学のスレッシュ・サンタナムとニューヨーク州立大学(SUNY)アップステート医科大学のウシャ・サティシュの協力を得て、共同研究を実施した。

 研究の第1フェーズでは、24人の「知識労働者」、すなわちマネジャーと建築士、およびデザイナーを研究参加者としてシラキュース・センター・オブ・エクセレンスに迎え、高度に制御された作業環境の中で、2週間のうちの6日を過ごしてもらった。この24名には、上記の場所で午前9時から午後5時まで通常の仕事手順で働くよう依頼した。その間、参加者には知らせずに、作業スペースの空気の質の状態を通常環境、すなわち最低限の許容基準をやっと満たす状態から、最適環境に変化させた。

 最適環境では、屋外から作業スペースに取り込む空気の量(すなわち換気率)を増やした。厳密に言えば、換気率をいわゆる「屋内空気許容」基準で必須とされる数値(大半の建物がクリアしている状態)の2倍に高めた。また、揮発性有機化合物(VOC)の水準も変化させた。その手段として、VOCを排出する一般材料(たとえば表面洗浄剤や、ホワイトボードマーカー、ドライクリーニングをした衣類、建築資材)の数を調整した。これにより、研究参加者は仕事中にVOC濃度の典型的な環境と、低い環境に身を置くことになった。最後に、二酸化炭素を3つの異なる水準に設定して検証した。すなわち、空気中の二酸化炭素の濃度を、換気率を高めた低水準(600ppm[100万分の1])、多くのオフィスで典型的に見られる水準(950 ppm)、および米国の学校でよく遭遇する高水準(1400 ppm)の3つに設定した。

 そうして、他の条件はすべて一定に保ち、毎日の終わりに、認知機能の標準テストを使って、研究参加者たちの意思決定パフォーマンスを検証した。ちなみに、同テストは研究の現場で数十年来使われているものだ。

 上記の結果、より良い空気を吸うと、研究参加者たちの意思決定パフォーマンスが著しく改善することが明らかになった。換気率を高め、化学物質の濃度を下げ、二酸化炭素の濃度を低くした環境の中で働いていた時には、9つの認知機能領域にわたって、テストの得点が高くなったのだ。テスト結果が最大の改善を示したのは、いかに情報を使って戦略的決定をするかを試す分野と、危機の最中にいかに計画を立てて覚悟を決め、戦略を練るかを試す分野だった。これらはまさに、知識経済で必要とされるスキルだ。

 バイアスがかかる可能性を抑えるため、我々はこのフェーズをダブル・ブラインド方式(二重盲検法)で実施した。参加者たちは、作業空間の状態が変化することを知らされなかった。同様に、認知機能データを分析する科学者たちも、当該条件については知らされないままだった。さらに、参加者の間の能力差を照査し、各自のベースラインを基準に、それぞれのパフォーマンスを測定した。ある人が他の人よりも賢いかどうかにかかわらず、我々の関心は、同一人物の得点を比較することにあった。

 学習効果がなかったこと(同じテストを数回受けた後、得点が上がらなかったかどうか)、およびバイアスがかからなかったこと(ブラインド方式がうまくいったかどうか)を確認するために、エクスポージャ-条件の1つ(高い換気率、低VOC、低二酸化炭素)については、9日の間をはさんで、初日と最終日に繰り返し実施した。その結果には一貫性があり、学習効果がなかったこと、およびブラインド方式が有効であったことが示唆された。

 研究の第2フェーズでは、調査の場をラボから現実世界に移し、通気性、VOCおよび二酸化炭素以外に、認知機能に影響を及ぼしうる付加的要因を検証した。このフェーズの研究参加者は、米国各地にある合計10棟の建物で働く100人以上の知識労働者だった。ちなみに、このうち6棟の建物は「グリーン認定」を取得していた。(「グリーン」という単語からは省エネルギーと低い換気率を想像させるが、多くのグリーンな建物は省エネでなおかつ換気率もいい)。各棟の屋内空気の質を測定し、研究参加者たちの認知機能をテストした。

 給与、職種、建物のオーナーかテナントか、地理的位置などの要因をコントロールすると、グリーン認定を受けた建物で働く人たちのほうが、テストで高得点を取っていた。また空気の質に加えて、温度も影響を及ぼすことが判明した。標準的な快適温度と湿度の範囲内に保たれた環境で働いていた時のほうが、どの建物にいても意思決定のテストで好成績が出ていたのだ。

 以上の研究結果から、リーダーや建物管理者はどんな教訓を得るべきか。簡潔に答えよう。