ほどほどの距離感よりも、1歩踏み込んだ関係へ

 相手が問題を掘り下げる支援をし、出てきた解決策に納得感を持てる土壌をつくる。そして、その過程では、コンサルタントとして「何とかして役に立ちたい」と思って全力を尽くすこと、誠実な「好奇心」をあふれんばかりに持つこと、適切な「思いやりのある」姿勢を持つこと、クライアントの本当の思いを積極的に突き止めようとすること、という姿勢を貫いているのである。シャインとクライアントの関係は、コンサルタント(専門家)と顧客という、ほどほどの距離感に留まっていない。互いに深い信頼や素直さを示せる関係を築いているのである。

 この姿は「解決策を提示する有能なコンサルタント」または「アドバイスを与えてくれる頼もしい上司」といった像とは、かけ離れているかもしれない。時に無知を装い、初歩的な質問をしなければならない場合もある。「なにげない」質問がきっかけになって問題解決へ至ったことに、相手は気が付かない場合もある。しかし、問題にアプローチするのを後押しする「謙虚なコンサルティング」は、相手の納得感を醸成できていることで、実行までのスピードも速い。真に人や組織の変化を助けるアプローチだと言えるだろう。

 本連載では、過去にもシャイン氏の著作である『問いかける技術』『人を助けるとはどういうことか』を紹介してきた。マサチューセッツ工科大学(MIT)の名誉教授である氏は、社会心理学と組織心理学の分野で50年以上にわたって研究を続けている。そのような背景があることも、本書の説得力を高めている。具体的な質問の仕方、話の聞き方、そしてケースと、実践する上で欲しいと思う情報も提示された本書で、「本当の支援者」を目指してみてはどうだろうか。