●自社の強みに立脚する

 両社は長年アナリティクスに、そして近年ではビッグデータに注力している。両社にとって認識技術は、アナリティクスへのこれまでの注力の延長であり、まったく新しい分野ではない。

 認識手段の多くは統計に基づいており、従来の統計業務を担ってきたアナリストとデータサイエンティストに教育を施せば、機械学習やその他のAIに対応できる――。両社はこのことを心得ているのだ。グプタとペリーも、認識技術に加えてビッグデータとアナリティクスの責任も担っている。

 ●人材に注力する

 アメリカン・エキスプレスとP&Gは以前から、人材マネジメントの手法に定評があるが、アナリストとデータサイエンティストについても例外ではない。アメリカン・エキスプレスは、1500人のデータサイエンティストから成る組織を(主にインドと米国で)立ち上げており、その中で認識技術に携わる人員を増やしている。

 P&Gの場合、アナリストとデータサイエンティストの人数はこれより少ないものの(数百人ほど)、それでも業界内の平均を大幅に上回っている。同社の社風は新人の採用と内部昇進を重んじているが、データサイエンスと機械学習の分野は例外としており、必要とされるスキルを持つ即戦力も複数採用している。

 ●主に外注よりも自前で取り組み、技術を培う

 アメリカン・エキスプレスもP&Gも、認識技術のケイパビリティを社内で培うという信念を持っている。もちろん両社はベンダーとも協働するが、開発を内制化できるオープンソースのツールを非常に重視している。自社で技術開発したほうがより効果的で、コスト効率も高いと考えているからだ(過去のAIツールについても、たいていの場合そうしてきた)。

 ●自社と顧客の双方に有益なアプリケーションに注力する

 長きにわたり顧客重視の伝統を持つ両社は、顧客に寄与し、かつ自社にもビジネス価値をもたらす認識アプリケーションに注力している。

 たとえば、アメリカン・エキスプレスは信用詐欺の削減に取り組んでいるが、これは顧客価値と自社のビジネスメリットの両方につながる。顧客の状況(現在位置情報など)を把握する方法を開発すれば、詐欺に対する不要な警告を発しなくても済む。

 P&Gの例では、認識技術を使った「オレイ・スキンアドバイザー」というアプリで顧客のニーズに応えている。女性がこのアプリで自撮りして送信すれば、肌年齢を診断してもらったり、自分に適したオレイブランドのコスメ商品のお薦めを受け取ったりできる。

 P&Gが注力している同様のアプリケーションには他にも、カスタマーサービスでの支払処理を助けるAIベースのボット(ITのサポートとオペレーションにも活用できる)や、マーケティング費用、サプライチェーン、販売プロモーションを最適化する機械学習(同社と販売パートナー両方のメリットになる)などがある。

 ●自動化(automation)ではなく、拡張(augmentation)を図る

 両社が目指していることは、認識技術による大幅な雇用削減ではない。グプタは、「認識技術が担うデータ分析はすべて、ビジネスの成長を促すため、結局はさらに多くの人材が必要となる」と見ている。P&Gでの認識技術の活用も、人員削減のためではない。人間と機械は、自動化ではなく拡張という関係性において密接に連携していくことになる――両社はそう確信しているのだ。

 筆者ら2人は、両社が初期にエキスパートシステムに取り組んでいた頃から、その動向を追ってきた。このため、両社が大企業の中でも認識技術を早くから導入し、事業の成功のために進化とイノベーションを起こしていることには驚いていない。なぜアメリカン・エキスプレスとP&Gは、長年にわたり顧客に優れた体験を与え続けているのか。認識技術の計画的な導入は、数ある答えの1つである。


HBR.ORG原文:How P&G and American Express Are Approaching AI  March 31, 2017

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トーマス・H・ダベンポート(Thomas H. Davenport)
バブソン大学の特別教授。経営学と情報技術を担当。マサチューセッツ工科大学センター・フォー・デジタル・ビジネスのリサーチ・フェロー。デロイト・アナリティクスのシニア・アドバイザー。インターナショナル・インスティテュート・フォー・アナリティクスの共同創設者。ジュリア・カービーとの共著新刊『AI時代の勝者と敗者 機械に奪われる仕事、生き残る仕事』、他多数の経営書を著している。

ランディ・ビーン(Randy Bean)
ニューバンテージ・パートナーズのCEO兼マネージングパートナー。