●業界への影響

 この比較的明らかな予測に基づき、次の疑問が自然と導かれる。それは、どの業界と企業が最も打撃を受ける可能性が高く、したがって現在の運営モデルを見直す大きな必要性に直面しているのか、である。

 これに関して、英EU離脱によって変わる可能性が最も高いのは、英国とEU旧パートナー国との政治的距離である。そして、政治・制度に対する感応度が高い業界ほど、大きな影響を被りやすい。もちろん、英拠点の事業のほとんどがEU市場へのアクセスを緩和される、などという規定ができれば話は別なのだが(少なくともEUからの譲歩は、現時点ではありえないように思われる)。

 政治・制度に対する業界の感応度に相関するものとして、次の指標が挙げられる。

 高度の規制下にあること。固定需要商品や、(福祉・社会保障の枠内で)給付される商品・サービスを生産していること。大勢を雇用している大企業、政府へのサプライヤー、あるいは国の基幹産業であること。国家の安全保障に必須と見なされていること。天然資源を管理していること。そして、必要な投資が大規模かつ不可逆的、かつ地域特有の性質であることなどだ。

 広範囲に国境をまたがる金融サービス業にとっては、EUの「金融パスポート」が非常に重要である。そのため、自社の欧州人員を英国に置くべきか、それとも欧州大陸に配置すべきかを見直すのも当然であろう(一例として、先頃のゴールドマン・サックスの発表によれば、ロンドンから職を減らして欧州には数百職を追加するという。英EU離脱のまだ第1段階であるというのに、だ)。

 英EU離脱に対する業界の感応度を測るバロメーターとして、他にも次の3つがある。まず、国内市場だけではなく世界各地域での償却を要する、高度な規模の経済(BMWは、Mini〈ミニ〉の製造を英国外に移すべきか否かを検討している。同ブランドは非常に英国的なイメージにもかかわらず)。次に、輸出または輸入での高度な貿易依存(EUは、英国の輸出先としてよりも、輸入元としていっそう重要である)。第三に、サービス・セクターに属していること(英国にとって特に重要なセクターだが、障壁を克服するには投資協定と貿易協定の両方がしばしば必要とされる)。

●企業への影響

 企業レベルでは、英EU離脱から被る影響を高めうる要因が、さらにいくつか存在する。競合他社と比較して輸出または輸入への依存度が特に高い企業は、最も大きな痛手を被る可能性が高い(米国ではトランプ大統領のTPP離脱に対し、ニューバランスとナイキは対照的な反応を示した。ニューバランスは国内での製造に注力し続けていたのに対し、ナイキは国際的なサプライチェーンを構築していたからだ)。

 まだ輸出または輸入をしていない小規模な企業にとっても、チャンスの幅が狭まるという点では痛手を被りやすい。このような企業は一般的に、最初の国外取引先を近隣の国々に求めるからだ。

 また、たとえ製品やサービスが国境を越えない場合でも、英国、なかでもロンドンを欧州事業の地域本部としている企業(米国の多国籍企業の多くなど)は、拠点の見直しを迫られる可能性が高い。同様に、ロンドンをグローバル本部としている企業も、特に事業のほとんどが英国外で行われている場合には見直しが必要になりそうだ(その例がボーダフォンであり、収益の約85%を英国外から得ているとブルームバーグは報じている)。

 英EU離脱を歓迎する独自の理由があると思われる英国企業は、英国に特化していて、国内の地域レベルまたはグローバルレベルの競合他社を撃退しようとしている企業であろう。このことは、きめ細かい考察の重要性を示している。すなわち、業界内の全企業、ましてやすべての業界が、同じように影響を被るわけではないということだ。同様に、離脱への適切な対応法もまた、企業の個別具体的な状況に基づいて導き出される。

 だが、英国とEUが別々の道をたどり始めたことを踏まえれば、戦略の変更を検討しない理由はない。


HBR.ORG原文:Figuring Out Which Companies and Industries Will Be Most Damaged by Brexit  March 29, 2017

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パンカジュ・ゲマワット(Pankaj Ghemawat)
ニューヨーク大学スターン・スクール・オブ・ビジネスのグローバル・プロフェッサー。経営学と戦略を担当。同校の教育・経営グローバル化センターのディレクター。スペインのIESEビジネススクールのアンセルモ・ルビラルタ記念講座教授。著書にWorld 3.0などがある。