牧岡 従来の戦略論のベースは「ラーニングカーブ(経験曲線)」なんですね。生産量や作業量が増えると経験則が積み上げられ、作業効率も高まっていくという考え方です。しかし、これは経験則の有効期間が10年以上続くという暗黙の前提に立った経営手法なので、変化が著しい現在ではもはや通用しづらくなっています。ちょっと大げさに言うと、デジタルの影響でラーニングカーブの形状が一晩で変わってしまうこともあり得ます。今の時代、ラーニングカーブがどう変わるかを読む力が必要です。

岩佐 ラーニングカーブを変えてしまうようなデジタル・ディスラプション(デジタル化による破壊的変革)をする側になるか、される側になるかですね。

 ですが現実はどうかというと、攻めようとする企業は少ない。昨年、本誌でも「イノベーションのジレンマ」という特集を組んだのですが、破壊的イノベーションの話をすると、8割の人は「それからどうやって身を守るか」と考える。圧倒的にディスラプトする方が少なくて、守る方がマジョリティなんです。

これからの戦略のポイントは
「What to disrupt?(何を壊すか)」

牧岡 プラットフォームやデジタルといった話題になると、必ず「世の中すべてがデジタル化されることはなく、アナログの「おもてなし」的な部分は残る。そこは日本企業の強みが生かせるところ」という話が出ます。

 しかし、民泊サービスのAirbnb(エアビーアンドビー)は先頃、「チーフ・ホスピタル・オフィサー」の導入を発表しましたよね。これはまさに、サービスのクオリティを上げるという宣言にほかならない。ホテル業のプラットフォームを握った同社がサービスレベルを上げてきたら最強です。"当社はポスピタリティで勝負する"と昔ながらのやり方に固執していたら、あっという間に破壊されてしまうかもしれません。

岩佐 もはや、既存の企業が従来のビジネスモデルのまま安定的な成長を続けていくのは困難です。デジタル・ディスラプションから身を守るのでなく、自らが破壊者になっていく戦略が、今こそ求められます。

牧岡 その通りだと思います。では、どんな戦略を立てればいいのかということになるわけです。最近よく「変化の著しい時代に成長戦略は意味がない」という話が出ますが、私はそうは思いません。逆に、戦略の重要性はよりいっそう増し、且つ、有効な戦略を立案することが難しくなっているのではないでしょうか。これからの戦略立案のポイントは、「What to disrupt?」(何を壊すか)にあると考えています。そのうえで勝負の土俵や具体的な手法を考えていくことが大切です。

岩佐文夫
DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー
前編集長

岩佐 なるはど。これをうかがって、スタートアップ(ベンチャー企業)の話を思い出しました。よく「スタートアップには戦略がない」と言われますが、私はあると思います。ただ、それが言語化されていないだけで、試行錯誤しながら既存の仕組みを壊すことから新しいビジネスをつくり出す。出来上がったビジネスを見ると、確かに創業時の思いや戦略がかたちになっているんですね。いまの大企業にも、このベンチャー的な戦略が求められているのではないでしょうか。実行して、結果を見て、ピポッド(方向転換)しながら進む。

 その際、戦略の概念はいまや変化していて、牧岡さんがおっしゃるように、何を壊すかを定めたうえで、方法論、実行論まで含めたものが、広い意味での戦略とし再定義される必要があるでしょう。

牧岡 そこで一番大事なのは、「何をどのくらい壊すのか」のインパクトが戦略の優劣を測るモノサシの1つになるということです。例えば、これまで市場規模が1とすると、それを1.2倍にする程度の変化ではだめです。ほとんど何も変わらない。10倍、20倍にするようなレベルで考えないと変革は起こせないでしょう。

岩佐 当然、戦略の実行時には混乱や失敗がつきものだということも、理解していく必要があります。

牧岡 そうした激変を許容し、管理できるかどうかが、今後は企業にとって、極めて重要なケイパビリティ(組織的な能力)となるでしょう。

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