「普及性」とは、認知度の向上だけでなく、導入のしやすさも含む。

 糖尿病予防の例を見てみよう。営利組織のオマダ・ヘルスは、基本的にYMCAなどと同じプログラムを提供していたが、加入後に必須となる参加時間を短く設定した。その結果、市場に参入して1年後の2014年にはプログラム参加者は約4000人だったが、2016年の登録見込者は10万人を超えた。2015年に糖尿病予防プログラムを提供した他の組織すべての登録者総数を、5倍上回る人数だ。

 では、いかにしてこれを実現したのだろうか。

 オマダは糖尿病予防プログラムを、わずか16週間という短期集中プログラムとして売り込んでいるのだ。そのうえで、プログラムの終了に近づいた利用者にのみ、6~8ヵ月のメンテナンス・セッションを提供する。これを、1年にわたる出席を要し、なかなか導入が進まない他のプログラムと比べてみてほしい。

 さらに同社は、無料のオンラインデモやワイヤレス測定も提供するほか、参加者が進捗を追跡して共有できるよう、オンラインでのプロフィール機能も備えている。これにより、参加を検討している人々は他のユーザーの使用状況を見て、プログラムへの理解を深めることができる。

 オマダはロジャーズの普及性の原則を実践し、以下を特徴とするプログラムを構築したのだ。

●既存のプログラムに比べて(費用とメリットどちらも)優れている

●受益者の価値観、過去の経験、ニーズに合っている

●使用(や実践)が容易で理解しやすい

●加入しなくても試すことができる

●潜在利用者が、他の利用者の使用を観察して導入のメリットを把握できる

 2つ目の原則は、「参加見込みのある人々をターゲットにする」ことだ。この原則は、心肺蘇生法(CPR)を普及させるのに一役買った。この事例が示しているのは、プログラムの普及を促す可能性がある一部の集団をターゲットにするだけでは不十分だということだ。すなわち、選ぶセグメントも適切でなければならない。

 1960年に考案された当時、CPRは心肺停止患者にとってまさに命の救いとなるものだった。ところが、CPRはその後10年間、医療施設で働く医療提供者というごく限られた集団以外で使われることはなかった。そこで、米国心臓協会など初期の推進者は、人命救助に取り組む別の集団、すなわちボランティア消防士を訓練することでCPRを広めようと考えた。消防士らはこの救命法を積極的に受け入れたが、普及はなお限定的だった。

 ほとんど偶然によって、大きなブレイクスルーがやって来た。数年後にある医師が、救急車の配車係を訓練し始め、救急車を呼んだ人に対し電話口でCPRの手順を教えられるようにしたのだ。配車係という人命救助者のセグメントが、全米で救急車を呼ぶ膨大な数の人々を訓練することになり、CPRの普及は飛躍的に増えた。現在では、医療の専門家と一般人を合わせて1800万人以上が、毎年CPRの訓練を受けている

 3つめの原則は、「営業とマーケティングの組織能力を構築する」ことだ。人々に望まれるサービスを生み出し、それを最も利用しそうな相手に届けるだけでは不十分である。人々にそのサービスを使ってみたいと思わせなくてはならない。

 1971年、米国の政府と学界の研究チームがある発見をした。塩と砂糖を溶かした水によって、コレラによる下痢の被害を食い止められるとわかったのだ。経口補水と呼ばれるこの方法は、しかし長い間使われないままだった。

 1980年代初頭になって、ようやく普及が進み始めた。バングラデシュのNGOであるBRAC(バングラデシュ農村向上委員会)が、何千人もの有給スタッフを雇って村々に派遣し、最も貧しい家庭にも置いてある材料を使った補水液の作り方を村人に教えたためだ。経口補水はその後の数年間で、コレラや下痢を伴う多くの疾患(世界の最貧国における5歳未満の子供の最大の死亡原因)に対する一般的な治療法となった。

 たいていの非営利組織にとって、需要の喚起は不慣れな領域だ。そこで、以下の3つの質問に答えることから始めよう。

●自分たちのプログラムやサービスは、どうすれば次の5項目で受益者から高得点をもらえるだろうか。(1)既存のものより優れている、(2)受益者のニーズに合っている、(3)簡単に使える、(4)試用できる、(5)メリットを観察できる。

●想定ターゲットのうち、どのセグメントがみずからの問題を認識し、解決策を求めているだろうか。

●自分たちの斬新なプログラムやサービスを、潜在的受益者に売り込んでくれるのは誰だろうか。

 これらの質問に答えるためのサポートもある。グローバルな非営利投資機関のアキュメンは、貧困者のために活動する組織に向けて、営業企画に関するオンラインコースを提供している。セールスフォース・ドットコムの社会貢献部門であるSalesforce.orgは、営業とマーケティングの実施をサポートするオンラインツールを提供している。また、人間中心デザインを掲げるIDEO.orgは、非営利組織が受益者の考え方や要望を理解し、それらを満たすためのプログラムを設計できるよう支援している。

 ニーズとウォンツの双方を満たすプログラムを、適切な受益者に提供し、人々の大きなニーズに応えるには、非営利組織とその資金提供者はどうすべきか。それを教えてくれるのが、上記のような組織、そして何より彼らが従っている原則なのだ。


HBR.ORG原文:Even Life-Saving Innovations Don’t Sell Themselves  February 16, 2017

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ボストンのブリッジスパン・グループのパートナーで、公衆衛生部門の責任者。

 

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ボストンのブリッジスパン・グループのマネジャー。