価値が出やすい顧客データを取り込むべき

――IT投資にあたっては、ROI(投下資本利益率)だけを問うのではなく、「オプション価値(予想外の効果)」も認識すべきと提唱されています。

 たとえば、コマツが開発した建設機械の情報管理システム「KOMTRAX」は、もともとは盗難防止を目的としてGPSを装備したに過ぎなかったのですが、燃料ゲージやオイルフィルターなどの各種部品に数多くのセンサーを取り付けることでさまざまなデータを取得し、故障予測や省エネ運転支援、環境にやさしい製品開発などに活用しています。さらには、ICT建機の開発により、建設機械の運転記録データを取得し、建機の半自動運転も実現しています。

 デフォルトで建機にGPSを取り付けるには当然、コストがかかります。顧客に負担してもらうのではなく、自社でまかなうとした判断は、当時の社長、坂根正弘氏の英断によるところが大きいと思いますが、盗難防止だけを考えれば、ROIは小さなものだったはずです。しかし、KOMTRAXの取り組みを進めた結果、コマツのビッグデータ活用は「スマートコンストラクション」というソリューションビジネスを創出するなど、大きな価値をもたらすこととなりました。

 データ活用にあたっては、「1.経営層、企業としての組織的コミット」「2.顧客部門データを有する事業部門との連携による成功事例の蓄積」、そして「3.データ活用事例の社内展開(オプション価値)と顧客へのアピール(顧客データの取り込み)」という3つの手順が不可欠です。さらに重要なのは、これら3つの手順を反復し、早く回していくことです。オプション価値がわからない領域に、いきなり大きな投資をするのではなく、小さく始めて、プロセスを高速で回しながら大きく育てていきます。ダメな場合は、損失が小さいうちに撤退することも大切です。

――オプション価値を事前に見積もることは可能ですか。経営者はどこまでオプション価値を認識し、投資判断を下すべきですか。

 オプション価値を算出するためのファイナンス理論は存在しますが、KPI(重要業績評価指標)を投資しながら探していくという意味においては、あらかじめ予測することは難しいでしょう。そうしたなかで重要なのは、「価値の出やすいデータ」を収集することです。価値が出やすいデータは、顧客のそばにあります。具体的には、顧客クレームや製品稼働、故障などのデータです。これらの顧客データを取り込むことによって、開発、生産、サービスなどの部門を越えた全社的な活用に広がりやすいことが我々の調査結果からも明らかになっています。