――データの分析とクリエイティビティが一体になって、相互に絡み合って動いていく感じですね。

山之口 援
博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局 局長
博報堂コンサルティング 代表取締役
共同CEO 慶應義塾大学大学院 経営管理研究科修士課程修了。都市銀行、戦略コンサルティング会社を経て、2001年、博報堂ブランドコンサルティングの立ち上げに参画。IMJとの合弁で設立した博報堂ネットプリズム代表取締役社長、日立製作所とのビッグデータ解析プロジェクト、マーケット・インテリジェンス・ラボの共同代表を歴任。2016年4月より現職。ITを活用したマーケティング改革を専門とする。

 クリエイティブとアナリティクスとは、「陰」と「陽」の関係だと思います。同じものの両面ですが、新しいマーケティングでは、全脳思考が要求されます。右脳はクリエイティブと物語用に、左脳はアナリティクスとデータ用に使います。この両方を組み合わせて使うのです。ですから、新しいマーケティングは、すべてアナリティクスとデータである、とは言えませんし、同時に、ただ洞察や直観や創造性を使えばいいのだ、とも言えません。そうしたものは、データでテストしなければならないからです。その意味で、今はワクワクするような時代です。なぜなら、この両方の考えが歩み寄って、統合されて、よりパワフルなマーケティングがこれから展開されるからです。

――日本でもそのようなマーケティングを、ネットベンチャーやeコマースの会社は実践しています。一方で、大企業がそういうマーケティングを行うにはどうすればいいのでしょうか。アメリカの大企業が新しい文化をどのようにして取り入れていったのでしょうか。

 そうですね、それは簡単ではありません。まずは組織が迅速に動けるようにすることです。組織の俊敏性といえば、まず仕事を小さい単位やチームに分けて、機能横断型のチームをつくることから始めます。しかし、このチームに決定のできる権限を与えなければ意味がありません。チームが発案したことを、上司に持って行って承認を得なければならなかったら、このプロセスは機能しません。そこで、根本的に言えることは、俊敏な決定プロセスに移行するためには、チームに権限を与えなければなりません。組織体制や手続きももっと少なくして、チームやリーダーシップにもっと頼るべきです。

 大企業では、こうした文化を変えることは容易ではないでしょう。日本のような階層的な社会では、さらに難しいかと思います。しかし、意思決定は階層的に「上」で行うのではなく、フラット化させて「横」でされるのがいいでしょう。

 よく「どうしたら私の上司を変えられるのでしょうか」と聞かれることがあります。これに対しては、私は4つの戦略を勧めています。

 1つ目は、「巡礼」と呼んでいる戦略です。この「巡礼」戦略では、自分の会社のリーダー層をスタートアップ企業や、あるいはシリコンバレーの会社へ一緒に連れていきます。そして、そこではどのようにことがなされているかをリーダー層に見せるのです。

 20年ほど前にeコマース革命が起こっていた時、マクドナルドは、自社の管理職チームを飛行機に乗せて、一週間シリコンバレーへ送り込みました。シスコやアマゾンなどを見学させて、外の世界で何が起こっているかを直接体験させたのです。これが、第一の戦略です。

 2つ目の戦略は、「福音を説く」と呼んでいる戦略です。これは、外部から専門家を呼んできて教育することです。第三者や専門家を呼んで、「約束された土地」つまり「将来像」を見せてもらうのです。このようにして、リーダー層に将来像を見せてあげるのです。こうして、新しい発想(インスピレーション)のきっかけにしてもらいます。

 3つ目の戦略は、2つ目の逆です。リーダー層を怖がらせるのです。具体的には、リーダー層を創造的破壊者に突き会わせ、また競合他社の脅威にさらすのです。競合他社がそれをしているなら、こちらも負けてはいられない、というわけです。

 4つ目の戦略は、最も現実的で実践的なアプローチで、小さな実験から始めることです。リーダー層に、これならいける、という証拠を突き付けるのです。私なら、端っこの任された分野で俊敏性を発揮し、ゆっくりとコア分野へと迫っていきなさい、とアドバイスします。一朝一夕に全体の運営を変えることはできないからです。

 俊敏性は、従来の決定プロセスと共存することができます。小さな実験から経験を積んで、業務が成熟してきて信頼されるようになってくると、組織全体がその方向に動き始めるようになります。大きな会社は、できたばかりの会社のようには動けない、というわけではありません。ただ、リーダー層が決定権をチームに付与して、チームが実際に自分たちだけで決定できるということを明確に打ち出す必要があります。それが大きな会社に必要な組織文化における変化でしょう。

 若い世代は、こうした新しい形態の決定プロセスに慣れています。同僚間での意思疎通を活発にして、連携も非常に上手です。しかし、年長の社員がいなくなるのを待っているわけにはいきません。そこまで待っていては、彼らと一緒に会社までつぶれてしまいます。これは確かに簡単なタスクではありません。

最終回につづく。