なぜここで働かなければならないのか?

 現代ほど、企業の採用担当者を悩ませる時代はないだろう。聞き飽きた表現ではあるが、たしかにかつては、偏差値が高い有名大学を卒業して、知名度も給料も高い「良い会社」に就職し、そこで一生働くことが典型的なゴールとされていたのかもしれない。しかし、個人の価値基準があまりに多様化したいま、限られたコミュニケーションの中でどの「良さ」を伝えるべきなのか、その決断を下すことはいっそう困難になっている。

 ただし、それは企業側にとってのみならず、働く側にも同じ苦しさを与えているのかもしれない。選択肢があまりに多様化したがゆえに、みずからの選択基準が曖昧なまま中途半端な決断を下してしまうと、大小さまざまな不満を抱えたまま仕事をすることとなる。そして、その事実に気づいて具体的に行動しようとした時には、もはや選択肢そのものが消滅しているという事態を招きかねない。

 本書は、企業が優秀な人材を惹きつける組織をつくるための方法論が中心ではあるが、その裏側には、自分自身は何を大切にして働きたいと思っているのかという問いかけが埋め込まれている。そして、そのために自分は何をすべきなのかと、具体的な行動をうながす作品でもある。限られた人生を最大限豊かにするために、いまいる組織を変えるべきなのか、別の組織に移るべきなのか、それともゼロから組織を立ち上げるべきなのだろうか。自分の価値基準が明確になれば、その答えはおのずと浮かび上がって来る。

「なぜここで働かなければならないのか?」

 多忙な毎日を送っていると、ついつい考えることを放棄しがちな問いではあるが、本書のページをめくる時間は、自分自身と正面から向き合う機会にもなる。そして、もしあなたが本心に背を向けて働いているのであれば、そこから脱け出すきっかけを与えてくれるかもしれない。