それぞれが絵に込めた思いを語る

 小島さんは、働くうえで大切にしていることとして「どんなに恥をかいても諦めないこと」「自分の器を信じること」「曲がったことをしないこと」「自分を恥じるようなことはしないこと」を挙げ、その思いを描きました。その完成作品を見て、ほかの3人とkuniさんが素直な印象を語ります。

「白い線が印象的」(片山さん)

「煮えたぎるものがイメージされた」(渡邉さん)

「確固たる決意を感じた」(孫さん)

 kuniさんの番になると、これまでになかった新たな試みが行われました。kuniさんが絵から抱いた印象を、歌にたとえて表現したのです。それは……。

「石川さゆりさんの『天城越え』です。何となく色気を感じるんですよね。赤い部分が長襦袢で、『私を殺していいのよ』みたいな(笑)」

 硬軟織り交ぜた参加者の印象を受けて、小島さんが絵に込めた思いを語ります。

「モヤモヤしたことや、恥ずかしいことはたくさんあるけれども、常に一本の軸を持ってやっていきたい。そんな思いを描きました。そしてその思いが、タイトルにもつながっています」

 小島さんがつけたタイトルは「あこがれ」でした。ほかの3人からは「ええ~?」という不満げな声。それに小島さんが答えます。

「真っ直ぐ、潔くやっていきたいのですが、まだまだ恥の多い、ひ弱な人生を送っているので、だからこそ『あこがれ』というタイトルにしたいと思ったんです」

 ポツリと誰かが「深いな」とつぶやきました。

「みなさんが出してくださった感想は、私の理想とするところを汲み取ってくださったような言葉だったので、嬉しかったですね」

 続いて発表する片山さんは、「自分のやりたいことをやる」「誇り・ワクワク・先が読めない」という思いを絵に表現しようと挑みました。ほかの参加者の印象です。

「僕はトライアスロンをやっているのですが、ホノルルでの大会は日の出前からスイムが始まるんです。そこでは、息つぎをしているときにだけ、日の出の光景が見える。息つぎの態勢では視界が斜めになるので、まさにこの絵のような光景に見えるのです」(孫さん)

「この絵の世界には安らぎが感じられ、悪者はいない。健やかで、たくましく、包容力がある。そんなふうに見えました」(小島さん)

「海に船を漕ぎ出すぞという希望のようなものを感じましたね」(渡邉さん) 

「少年の気持ちに見えました。少年たちは嘘をつかないだろうし、自分の決めた目標に向かって素直に進んでいく。だから、冬の全国高校サッカーのテーマ曲『ふり向くな君は美しい』ですね、これは。うつむくなよ、ふり向くなよってヤツです」(kuniさん)

 それらの声を聞いた片山さんが語り始めました。

「少年のようにとおっしゃっていただきましたが、まさにその通りです。少年の気持ちに戻れるような、自分のやりたい仕事をしたいという思いがあります。それがみなさんに伝わるのかどうか不安でしたが、見事に伝わっているのですごく嬉しいですね」

 片山さんは、この絵に「Wave」というタイトルをつけました。

 3番目に発表する渡邉さんは「余白と多様性」を大切にしながら仕事をしているといいます。その思いはどのように伝わったのでしょうか。

「虹が印象的ですが、むしろ右上の端の部分に勢いを感じました。それに、色画用紙でここまで白を出すには、相当な塗り込みが必要だったと思います。そこに完璧さ、自分の思いに対して徹底的に詰めるイメージを感じました」(小島さん)

「最初に見たときは、空に駆け上がるイメージでしたが、もう一度見たときにゴールという印象が浮かびました。ゴールとは終わりではなく、目指すところ。虹の指す方向がゴールなんだという、渡邉さんの明確なメッセージを見ました」(片山さん)

「大きな夢への出発点、大きな夢を描いてやるというワクワク感みたいなものを感じましたね」(孫さん)

「これはずばり、ゆずの『栄光の架け橋』ですね。僕は、左下の青い部分がポイントだと思っています。支えるところがないと、虹はできない。これを見て、この人はいい人だと思いました(笑)」(kuniさん)

 渡邉さんが、自分の思いを語ります。

「おっしゃっていただいたように、何も描いていない余白が大事だと思っています。いろいろな人と交わりながら新しいものを築いていきたいという思いがあるので、いろいろなものが交わって密度が高くなっていくと、やがてそれが光になっていくということを表現したいと思って描きました。つまり、闇から何かが生まれて光になる。その繰り返しをイメージしたのです」

 そんな思いを語った渡邉さん。タイトルは「吐いて、吸う」としました。

「呼吸です。つまり、人間が生まれて死ぬまでということですね」

 孫さんは「楽しいこと」「ワクワクすること」「いろいろな面白い人と出会えて、一緒に苦楽をともにすること」という思いを大切にしながら働いているといいます。

「リズムやテンポが感じられるのですが、それがギュッと詰まっていて、ものすごく密度のあるように見えます」(片山さん)

「一見したとき、音のイメージを感じました。右から左に進んでいくにつれて強さが感じられたので、変化という印象も浮かびました」(渡邉さん)

「音が鳴っている感じがする。以前聞いたことのある、土星の音に近いイメージです。そして、大きなビジョンのようなものを内包した世界に見えました」(小島さん)

「僕はタペストリーに見えました。縦のストライプが強い印象を与えていますが、タペストリーは横糸も必要です。おわかりですね。中島みゆきの『糸』です」(kuniさん)

 それを聞いた孫さんは、第一声でこう言いました。

「びっくりしました。まったく意味のない線がただ引いてあるだけなのに、本当にいろいろなことをイメージされるんですね。僕は今、50社以上のスタートアップを支援していますが、その人たちとオーケストラをつくりたいという思いを込めています」

 孫さんは、その思いを表現することのほかに、制限時間内でひたすら線を引くことだけに集中するという体験をしてみたかったと語ります。

「いろいろな人がいるので、いろいろな色がある。線はまっすぐではないし、線の太さもさまざまで、どれ一つとして同じ線はない。でも、そういう人たちが集まって一つの交響楽を奏でると楽しいよねということを考えながら、ひたすら線を引いていました」

 孫さんは、この絵に「orchestration#0」というタイトルをつけました。

「みなさんのイメージに、リズム、テンポ、密度、音など、音楽に関連する言葉がたくさん出てきたのは驚きました。思いは伝わるんですね」

 孫さんが自らの絵に込めたメッセージ、描きながら考えていたこと。その詳細については、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー3月号に掲載されています。ぜひご覧ください。