●全体像を把握する

 中央集権的な体制によって製品廃止が速まる理由は、ポートフォリオ全体に関する情報がトップに集められるからだ。我々が研究対象とした企業(すべての大手携帯電話機メーカー)は、調査中のどの期間においても平均で24製品を主要市場で販売していた。全地域での全モデルの数をふまえると、製品ポートフォリオは相当幅広くなる。

 しかし、製品1つか2つ程度を担当する下位のマネジャーは、ポートフォリオ全体にまたがる視野を持ちにくい。なぜなら、自分が管轄する限られた製品群にのみ焦点を当てているからだ。より上位の意思決定者は、その製品の売行きが他の製品と比較して相対的にどうかを、より的確に把握できる。

 分権的な企業であれば、廃止の決定を製品マネジャーに委ねるかもしれない。彼らは売行き不振の製品も、まずまずであると認識する可能性がある。しかし中央集権的な企業は、もっと迷いなく手を引くことができるのだ。

 製品マネジャーとシニアマネジャーの責任や権限のレベルは違うため、売行き不振への対応もそれぞれ異なる。下位のマネジャーは、担当する製品に見切りをつけることや、追加のリソースをライバルの製品チームに与えることをためらいがちだ。製品の継続を望み、販売促進や広告の方法を変えようとするだろう。かたやシニアマネジャーは、より大きな権限でリソースをあちこちに動かせるため、失敗品の後押しをやめてリソースを好調な製品に回す可能性が高い。

 たとえば、2008年にモトローラのモバイル部門トップとして招かれたサンジェイ・ジャは、就任後ただちに製品ポートフォリオを掌握し、同社のSymbian(シンビアン)OSの全製品ラインを廃止。より少数の製品とAndroidのプラットフォームに集中している。

 携帯機器のような製品の廃止は、複雑なプロセスを伴う。設計会社、通信事業者、アプリ開発者、ソフトウェア会社、コンテンツプロバイダー、製造会社が織りなすエコシステムにも影響する。製品ロードマップ、工場のスケジュール、サプライチェーンといった、一連の相互依存的な活動も調整しなければならない。外部的な要因が非常に多いため、社内で複数の職能と製品マネジャーらをまたいでのコミュニケーションと調整が求められる。外部の通信事業者やサプライヤーに対しても同様の対処が必要だ。

 そのため、廃止の適切なタイミングを量るのは難しい。そして、旬をとうに過ぎた製品を、ずるずると販売し続けることになる。短い製品ライフサイクルと急速な技術変化が顕著な業界では、迅速に動くほうが通常は望ましい。そうすることで、「古い」製品が一掃されるのみならず、新製品の居場所が生まれ、マネジャーはそちらに十分な時間と関心を注げるようになるのだ。

●迅速な変更には、迅速な意思決定が必要

 分権的な意思決定体制の組織にいる従業員は、綿密なコミュニケーションによって、互いの決定に影響をおよぼす要因を理解し、撤退をうまく調整しなければならない。このような条件の下では、意思決定の際に意見の不一致やミスが生じる余地が大きい。

 縦の関係性においては、情報の処理がはるかに効率的になる。製品廃止に伴う諸活動の調整では、縦方向のコミュニケーションに重きを置くことで、流れが滞りがちな横のやり取りが減る。中央集権化によって、調整が円滑になり、よりよいタイミングで廃止できるだろう。我々のサンプル企業群では、1つの機種の平均販売期間は1年強であったが、サムスンは約8ヵ月であった。

 我々の研究ではまた、分権的な携帯機器メーカーでは製品マネジャーに大きな決定権限が与えられていた。これによって豊かな会話と創造の自由がもたらされる反面、はからずしていくつもの縄張りが生まれるおそれもある。忠誠対象や利害がまちまちな従業員たちの間では、1つの議論だけでも合意は簡単ではなく、決定に時間がかかることは想像に難くない。リソースをめぐる製品チーム間の争いは、何が最善の方策かに関する論争を引き起こして激化させかねない。

 打ち切りの対象を決めて調整するにあたっては、製品マネジャー間で無数の(往々にして対立的な)やり取りが伴う。しかし、中央集権的な意思決定によって、その多くを回避できる。分権的な組織では、複数の意見を調整しなくてはならず、優先順位を決めて合意に達するのが困難だ。サムスンのような中央集権的な企業のほうが、二流品の廃止によってリソースを解放し、新たな成長源に大きく賭けることに長けている。

 スティーブ・ジョブズのような独裁的なリーダーこそ、イノベーション成功のカギであると多々言われている。それほど明白ではないが同様に重要なのは、撤退においても中央集権化が役に立つことである。スピードと敏捷性が問われる業界のマネジャーは、製品打ち切りの決定を効率よく進めるのが賢明なのだ。


HBR.ORG原文:Centralized Decision Making Helps Kill Bad Products October 18, 2016

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ジョン・ジョセフ(John Joseph)
カリフォルニア大学アーバイン校ポール・メラージ・スクール・オブ・ビジネス助教。戦略論を担当。より優れた戦略意思決定とイノベーションを促進する組織設計について研究している。

ロナルド・クリンゲビール(Ronald Klingebiel)
ドイツのフランクフルト・スクール・オブ・ファイナンス・アンド・マネジメント教授。戦略論を担当。専門分野は技術管理、およびアフリカの起業環境。