ソフトバンクのM&Aの
成功確率が高い理由

実際、日本企業はこれまで、外国企業のM&Aにおいて、計画通りの収益をあげられず、減損処理などに追い込まれる失敗を繰り返しています。

ハンスポール・バークナー
(Dr. Hans-Paul Bürkner)

ボストン コンサルティング グループ会長。2003年に、欧州出身者としては初めてボストン コンサルティング グループ(以下、BCG)のCEOに就任し、2012年まで務める。コメルツバンクを経て、1981年BCGミュンヘン・オフィスに入社。82年のデュッセルドルフ・オフィス、91年のフランクフルト・オフィスの開設メンバー。CEO 就任前までは、BCGグローバルの金融グループのリーダー。 現在は、フランクフルト、ジャカルタ、モスクワにオフィスを構え、世界中のオフィスのサポートに尽力。

 日本企業のM&Aの成功確率が低いとすれば、まずは経験が少ないことに起因すると思います。日本企業に限ったことではありませんが、成功の確率を高めるには、M&Aの経験を積むことです。毎年少なくとも1件とか、5年間に数件など定期的にM&Aを実行し、自分たちなりのノウハウをもつことが必要です。

 社内に経験を積んだM&Aチームをもち、どういう企業が対象として相応しいか、M&A後にどのようにすれば価値を創造できるか、M&A後の統合ノウハウを、経験に基づいて習得していくことです。

 経験を積んだチームを社内にかかえることで、投資銀行やコンサルティング会社をうまく活用することができます。

M&Aを成功させる能力を上げるには、どうすればいいのでしょうか。

 M&Aの実績が少ない企業の場合、よく分かっている領域から経験値を積んでいくことで、成功の確率を高められるでしょう。例えば、まずは国内で同じ業種の企業を対象に、次に国内で異業種でのM&Aを実施して経験を積み、その後、クロスボーダーで、外国企業の同業をM&A、そうした経験を積んだ上で異業種の企業とのM&Aに取り組むというようなステップが考えられます。

 また、日本企業による外国企業のM&Aでは、英語でコミュニケーションをとるのが不得手という点も、大きな弱みとなっています。

 買収した外国企業に日本人の財務マネジャーが出向いても、言語がネックで必要なコミュニケーションが取れず、十分なプロジェクトマネジメントができないということが多いようです。前述したような、人員整理や設備の廃棄、組織変革などの必要性を相手に納得させられず、実現できないケースをよく耳にします。

 中国企業や韓国企業では外国に進出した当初から、積極的に外国に社員を派遣し、英語で交渉ができる人材を育ててきましたが、日本企業はそうではありませんでした。

 言語に加えて、文化の壁も高いのが実情です。日本企業には、国籍や人種などの面で人材の多様性が低く、M&Aで新たに加わる人材をうまく融合していけない環境にあります。従業員の文化的な多様性を意識的に高めることも必要です。

そういう状況ではありますが、ここ数年、日本企業は外国企業のM&Aに積極的です。いま、日本企業に必要なことは何ですか。

 日本企業は、国内市場の成長余地が狭まり、成長は国外に求めるべきだと強く認識して、M&Aを積極化しているのだと思います。ここに至るまでに随分と時間がかかりましたが、こうした動きは間違っていません。

 経験を積んだ企業では成功確率が高まるという証左を、日本企業で探せば、武田薬品工業やソフトバンクなどが当てはまるでしょう。こうした成功企業の特徴は、CxO(経営責任者層)がしっかり関与しているということです。トップが関与していないと絶対失敗するとは言いませんが、成功確率は低くなると言えるでしょう。

 また、最初に戦略ありき、である必要があります。「売りたい」という形でM&A市場に出てきた案件を対象とするのではなく、経営戦略上、目標達成のためにこういう企業が必要であるから、M&Aで補うという考え方が必要です。

 逆に言えば、戦略がない状態で、投資会社などから、買収案件を持ってこられても、自社にとって意味のある精査はできるわけがありません。デューデリジェンス(詳細な資産査定)をしっかり行い、市場の中での客観的価値がわかったとしても、それが自社の戦略の中でどのような価値があるのかが明確でないと、真の意味で買うべきか否かの判断はできません。

 たとえば、ある買収対象企業は、市場価格で10であっても、自社が買えば15の価値にできるかもしれない。そういった判断は、自社の戦略によって違ってきます。

 日本企業は経営戦略をきちんと確立し、目標達成に必要な事業や企業を明確にして、積極的にM&Aを実行すべきです。時には失敗もあるかもしれませんが、それを含めて経験を積んで、M&A人材を育成していくことです。

 と同時に、意識的に組織メンバーの多様性を図り、異なる価値観の人材を統合する風土を作っていくべきです。こうしたことが長期的な成長のためには必要不可欠です。