アプリとAIによるこのような会話の最大の利点は、企業が会話のコンテキストに対する深い理解に基づいて、顧客の必要なもの(顧客の実際の言葉とは関係なく)を即座にクローズアップできることだろう。絞り込んだ適切な選択肢を提示することで、ニーズに対応しながらも追加的な選択の余地も提供できる。

 フェイスブックのメッセンジャーならば、ユーザーは本人認証されているため、企業は個々人に見合った情報を届けるためのプロセスを簡略化できる。ただ、そのメリットと引き換えに、一定のコントロールをアプリに委譲している。この点はフェイスブックやツイッターで顧客に接する場合と同様だ。

 一部の企業はすでに、会話型コマースに積極的に進出している。たとえば、花の宅配会社1-800-Flowers.com(ワン・エイトハンドレッド・フラワーズ・ドットコム)は会話型コマースの先駆者であり、メッセンジャーとアマゾンのAlexa(アレクサ:音声アシスタント)を活用している。

 同社は両方で稼働するベータ版を90日以内にリリースした。それが可能であった理由として、まずCEOみずからが推進者となり、全社的な取り組みとしてマーケティング部門に統括させた。また、販売部門とIT部門からはわずかな人員のみを関わらせることで、社内で優先順位に関する議論の的になることを避けた。顧客体験の設計とボット技術については、外部の専門家に頼っている。会話型コマースは新たなチャネルとして管理され、斬新的な成長が見込まれているが、機が熟せば同社の全ブランドに組み込まれる予定だ。

 ユーザーが1-800-Flowers.comの顧客サービスとメッセンジャー上で行うやり取りは、驚くほど人間的に感じられる。なぜなら、実際に人間が介在しているからだ。同社はまず、ボットを基盤とした買い物体験の設計・構築に注力しながらも、サービスに関する顧客からの質問については顧客サービスのスタッフに対応させている。将来的には、一般的な問い合わせにボットが対応するよう「訓練」する計画だ。

 同社は、メッセージング技術への賭けに自信を持っていた。メッセージアプリはすでに、オンライン空間における顧客の居場所となっている。その場で顧客に会うことが、最上の顧客体験を提供するうえで重要になったのだという。

 会話型コマースで成功を収めるには、顧客体験の設計を巧妙で秩序立ったものにすることが非常に重要だ。顧客は自然言語でのやり取りが的確であること、つまり会話のコンテキストが理解されることを、ますます期待するだろう。システムは「私の注文はどうなってるの?」という質問が、顧客の最新・未配達の注文品を指していることを理解する必要があり、注文品の現在地と到着予定日を顧客が知りたいのだと判断できなくてはならない。

 現在の会話型コマースは学習段階にあり、企業はその技術、顧客体験、サポートに懸命に取り組んでいる。会話型コマースを早期に採用した企業は、顧客体験の向上を取り組みの指針としてきた。賢明な企業はすでに習熟度を高め、ふさわしいマーケティングとITのスキルを構築している。このような企業は、顧客獲得をめぐる今後の戦いに勝利する可能性が最も高い。


HBR.ORG原文:Messaging Apps Are Changing How Companies Talk with Customers September 23, 2016

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ガディ・ベンマーク(Gadi BenMark)
マッキンゼー・アンド・カンパニー ニューヨークのソーシャルメディア部門プレジデント兼ゼネラルマネジャー。

 

ディリップ・ベンカタチャリ(Dilip Venkatachari)
パロアルトにあるマッキンゼー・デジタル研究所のバイスプレジデント。デジタルマーケティング技術とアナリティクスサービスを率いる。