●実験1:ハンディショップ(調理器具店)

 我々がインドでターゲットとする顧客は大型の小売店に行けない。代わりにハンディショップと呼ばれる、調理器具を売る小さな商店で買い物をする(ハンディとはインド伝統の鍋)。このような商店は、鍋や釜などを求めてくる人たちの長年にわたる顧客基盤を持っている。我々の商品は環境を汚さず調理できるのだから、これらの店を通じてホームストーブを売れば成功するはずだと考えた。

 これは理論的には優れたアイデアだった。しかし結局、販売アプローチとしては消極的すぎた。ホームストーブを棚に置くだけでは、客は手に取ろうとしないのだ。ハンディショップの客は、このような商品を目にしたことがない。それがどのような製品で、どう機能し、日々の料理になぜ大きな影響を与えうるかなど知る由もない。もちろん、自家発電という画期的な効能については外箱に記載されていたが、それを読むためにすすんで時間を割く人などいるだろうか。

 何より重要なのは、百聞は一見にしかずということだ。たとえ顧客が高機能の調理器具を買いに来ているとしても、購入を決める前には、実際に動作を自分の目で確かめなくては納得しない。火をたいても煙が出ず、短時間でチャパティが焼け、しかも携帯電話の充電ができる――ホームストーブをその場で実演する者がいなければ、これらを理解し信じるのは難しい。

 我々はこの失敗経験から、ホームストーブのようなエコ製品はプッシュセールスが必要だと学んだ。単に陳列していれば顧客がひとりでに買ってくれる、ということは期待できない。積極的に顧客の前に出て、ストーブを実際に動かす必要があるのだ。ここで次なる問題は、火を燃やすという行為をどう販売活動に結びつけるか、である。

●実験2:チャイワラ(お茶売り)

 ハンディショップでの教訓を得て、次の実験ではお茶を使うことに決めた。インドではどの町角でも、チャイワラと呼ばれるお茶売りがおり、行き交う通行人にチャイ(お茶)を淹れる。ここでは常に火がたかれている。その窯の代わりにホームストーブを使ってもらえば、商品の効能をたちどころに実演できる。お茶を片手にショーを見物してもらえるわけだ。

バイオライトのホームストーブを使ってお茶を淹れるチャイワラ。インド・オリッサ州 写真:BioLite

 我々は数十のチャイワラの店にホームストーブを設置し、その使い方を訓練した。また、バイオライトのポスターを印刷して屋台に掛けた。そしてコードを接続して、客がストーブから携帯電話を充電できるようにした。

 実演は見世物としては成功し、客の興奮を呼び起こした。だが、売上げは不十分であった。

 問題はこうだ。チャイワラは、「ストーブワラ」ではない。できるだけ多くのチャイを売るのが仕事だ。野心的で現代的な調理用ストーブを、丁寧に実演することを目的としない。彼らの関心事は、何杯ものお茶をできるだけ素早く客に出すことであって、ストーブの機能一式を見せることではないのだ。

 問題はさらにある。毎日何百人という人がこれらの屋台でお茶を買うが、支払う額は2ルピーだ。ホームストーブのような高額商品の購入を検討する気構えにはない。お茶を買ったら立ち去りたい人は、居残って携帯電話を充電しようという気にはならない。

 我々はこの経験から、高度に訓練された販売スタッフが必要だと学んだ。購入してもよいという顧客の前で、商品の効能を説明できる人である。実演できる販売環境があっても、人々に教えを施せる訓練された販売スタッフがいなくては売れないと、ようやく悟ったのだ。

●実験3:バイオライト旗艦店

 インドの都市ブバネーシュワルの真ん中に、アップルストアがあると想像してみていただきたい。我々はまさにそれを目指した。

 目標は、ホームストーブの体験に没入できる空間の構築だ。その場所で潜在顧客に、“energy everywhere”(どこでも使えるエネルギー)という我々のビジョンを知ってもらう。高度に訓練された熱意あふれるスタッフが、訪問者を楽しませ、教育し、ホームストーブならではの効能に惹きつける。このような空間なら、顧客体験をこちらで完全に掌握でき、ホームストーブを常にショーの主役にできるはずだ。

 ブバネーシュワルの中心にある賑やかな市場の近くに、理想的な店舗を見つけた。当社の現地チームは昼夜問わず働き、ニューヨークの設計チームとスカイプでやりとりしながら店内を改装した。それからお茶の屋台を設置し、説明用の図を印刷し、出店の用意を整えた。

インド・ブバネーシュワルの旗艦店に集う、バイオライト東インドチームのメンバー 写真:BioLite

 オープン初日は大成功だった。店は客であふれ、地元の新聞で出店が報じられた。売上げも上々であった。話題を広めるためにお茶を利用したのは前回と同じだが、今回は当社のスタッフが調理の実演も行い、見込み客を店内に招き入れた。

 しかし残念ながら、何週間か経つと、客足を維持するのが難しいことがわかってきた。我々のターゲットである、薪で火をたく顧客の多くは町外れに住んでおり、旗艦店がある中心街の市場に出掛ける用事はなかったのだ。

 この経験から次の教訓を得た。馴染みのないブランドを固定店舗で扱っても、顧客の獲得は非常に難しい。生活圏から出なければ店が見つからない場合はなおさらだ。店舗というチャネルを通じてある程度の売上げは得られたものの、店舗での顧客体験を潜在顧客のネットワークに直接持ち込まねばならないと気づいたのだ。それには、地域に根差したパートナーが必要だ。潜在顧客との信頼と関係性を、すでに築いている販売業者と組んではどうだろうか。

●実験4:エイボン式の訪問販売

 我々はこの時点になると、効果的な販売フローを回すにはいくつか必須要因があることを、十分な実験を通じて理解していた。まず、高度に専門化されストーブの実演ができる現地の営業・販売チーム。そして、実際に存在する潜在顧客のネットワーク。商品に対する彼らの関心が最も高まっている時に、販売チームが働きかけるのだ。ここから、ある意外な企業をヒントに販売方法を実験することになった。それは米国の化粧品大手、エイボンだ。

 インドのグリーンライト・プラネットという会社は、辺境地域で地元住民を販売代理人として活用し、エネルギー製品を販売してきた実績がある。これらの販売員は、地元で製品の実演を開催し、地元の人的つながりと信頼に基づく推薦を通じて住民を惹きつけている。

 同社が扱うのは化粧品やタッパーウェアではなくソーラーライトだが、大量の販売実績を誇る。エイボンに似たモデルを通じて販売員のネットワークを活性化し、近隣の住民、家族、友人と交流してもらうのだ。そこで当社は、2014年にグリーンライト・プラネットと提携し、ホームストーブの訪問販売に乗り出した。

 グリーンライト・プラネットのモデルは非常に有望であったが、深い知識と熱意が必要とされた。ソーラーライトを専門とする販売員に、超エコで発電可能なたき火ストーブを取り扱い品目に加えてもらうことは、難しい注文であった。ソーラーライトはスイッチをオンにするだけでその価値を示せるが、ストーブの実演には30分という時間がかかる。そして販売員には、製品の技術について広範なトレーニングを施す必要がある。さらに、ストーブは1つの実演場所から次の場所へと持ち運ぶのが容易ではない。

 我々は既存のモデルをホームストーブ向けにカスタマイズして、販売員が成功できるよう仕組みを整える必要があった。特に重要なのは、ストーブの販売のみに専念してもらうことである。

 ソーラーライトの販売員たちから貴重な学びを得た我々は、当社専任の販売チームを構成すべく模索を始めた。それぞれの地域で「店を開く」手助けをしてくれる人たちだ。チームの仲間を1人、また1人と見つけていき、やがて活力に満ち信頼できるチームが編成された。鮮やかな実演ぶり、そして豊富なファクトと逸話によって、聴衆の関心を惹きつける能力の持ち主たちだ。彼らを「バイオライト・バーナー」と名づけた。

 各バーナーは、5日間の集中トレーニングを受け、自分用の「ホームストーブ配達ボックス」を受け取る。これはムンバイで、ピザを保温箱に入れオートバイに積んで走るドミノ・ピザの配達員を参考にしたものだ。バーナーのオートバイにホームストーブ配達ボックスを載せ、実演や宅配のための運搬を容易にした。

新しいホームストーブ配達ボックスを載せたオートバイに乗る、バイオライト・バーナーのカムレシュ。インド・ニンバエラにて 写真:BioLite

 地域の専門スタッフ、関心を寄せてくれる人々のネットワーク、手軽なストーブ運搬手段。このほかには、何が必要だろうか。商品の代金をその場で支払う用意がある人たちだ。そして彼らは、購入における最も根本的なもの、つまり現金を用意できる必要がある。我々の顧客は、自由に使える現金が少ないため、高価な商品を購入するリスクは避けたいと考える。では、この問題を解決する仕組みは存在するだろうか。

●実験5:マイクロファイナンス機関

 新興国市場では、マイクロファイナンス(小口金融)は経済を動かす重要な手段である。これによって低所得世帯は、事業資金の調達や、日常生活での重要な購入を助けてもらえる。利用者はマイクロファイナンス機関を日常的に訪れ、ローンを組み、支払手続きをし、金銭管理をしている。

 自宅への有益な投資について、どこで話し合えばよいか。その投資を可能にするマイクロファイナンス機関ほど最適な場所は、ほかにない。

西インドチームのバイオライト・バーナー、プレム。ラジャスタンのマイクロファイナンス機関で、顧客の一群にホームストーブの実演をしている 写真:BioLite

 複数のマイクロファイナンス機関(MFI)とのパートナーシップによって、当社のバーナーはMFIの支店や村々に足を運び、その場でストーブの実演がやりやすくなった。さらに、興味を示した顧客にはその場で資金計画を作成し、すぐにストーブを購入できるようにしている(顧客の大多数は、ホームストーブの代金を6~8ヵ月で返済する。これは燃料費や電気料金の削減により可能となる)。

 バーナーたちはオートバイを駆り、客先にストーブを届け、必要に応じてアフターサービスを行う。バーナーやMFIとのパートナーシップによって、欧米市場の小売環境に根づいた「商品発見」という顧客体験を、この地で再構築できたのだ。

 我々はミッシングリンクを見つけた。各段階で、販売モデルのさまざまな重要要素を教えられた。顧客の獲得、実演と積極的な売り込み、商品を顧客ネットワークのある場所に持ち込むこと。そして小口融資が、潜在顧客の実際の購入を後押ししている。

 いま思い返せば、ホームストーブを最初にハンディショップの棚に並べた時が、バイオライトの転換点であったとわかる。我々の販売モデルには大きな穴が開いていた。ただ、そこで困って頭を掻きながら同じ試みを繰り返すのではなく、より柔軟で、現地市場に特有の課題を考慮した方法を再構築した。今年はバーナーたちのおかげで、何万もの家庭にリーチを広げることができた。これは、さまざまな販売モデルの実験を重ねた歳月の賜物である。

 我々のフレームワークは、現地に深く根差しながらも、当社がカバーするすべての新興国市場にも迅速に拡張できるという、ユニークな両立を可能にするものである。


HBR.ORG原文:How One Startup Developed a Sales Model That Works in Emerging Markets September 07, 2016

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ジョナサン・セダー(Jonathan Cedar)
社会事業を営むバイオライト(BioLite)の共同創業者兼CEO。同社は電気が通っていない世界中の地域に向けて、環境にやさしく手頃な価格のエネルギー製品を開発・製造している。