●再建チームを編成する

 失速時に経営チームを刷新することは、あらゆる意味で理にかなっている。

 第一に、重圧下で疲弊した組織に新たなエネルギーを注入する必要がある。

 第二に、新生チームのメンバーには、過去を守るだけでなく未来を創造せんとする、開明的な人たちを据えねばならない。転落に導いた戦略や慣行の骨格を保ったままで、現在までの過ちや今後の正しい道筋を見定めようと期待するのは無理である。むしろ、「反骨精神」を持つリーダーと従業員を見つけるのだ。

 第三に、現場の第一線でカギとなる人材を見つけ、昇進させよう。彼らを知識とエネルギーの源として、また「今後は現場の貢献を柔軟に評価する」というシグナルとして活用するのだ。最後に、経営チームの刷新は迅速に行う必要がある。メンバーを徐々に入れ替えると(影響を抑えるためにそうしたくなるのは山々だが)、貴重な時間をムダにしてしまう。そして新たに引き込んだメンバーは、旧来の組織バイアスを受け入れ始めてしまう。

 1999年にケント・ティリがトータルリーナルケア(腎臓透析サービス)のCEOに就任した際、同社は年間6000万ドル超の損失を出していた。ティリはただちに経営チームをほぼ一新した。「会社の救済と再生には全従業員が関わる」という認識を強化するために、会社を1つの村と表現するようになり、社内では肩書きの使用を廃止した。各地域のスタッフとの対話集会を開催し、「村民の声」も定期的に運営し始めた。全米のオフィスと医院から、最大4000人もの従業員が参加する電話会議だ。

 さらには、社名の変更までも従業員に託した。新たな社名ダビータ(DaVita)は、イタリア語で「生命を与える存在」を意味する。同社は2010年までにはS&P500銘柄の優良株となり、1ドル台だった株価は30ドルまで上昇。投資家に29倍のリターンをもたらした。その後も株価は2倍以上に達している。

 ●「中核の中核」に集中する

 失速状況を逆転させるには、膨大なエネルギーとリソースを要する。逆転に成功するリーダーは通常、全社を隅々まで見渡して次の部分を探る。整理すべきノンコア資産、売却すべき事業、停止すべき活動、廃止すべき機能、簡素化すべき製品ラインだ。1997年、スティーブ・ジョブズがアップルの暫定CEOに復帰した時もそうだった。レゴグループのCEO、ヨアン・ヴィー・クヌッドストープも2004年にこれを実行している。

 1930年代創業のレゴは、数十年にわたる成長をもたらす再現可能なビジネスモデルを開発した。1993年の収益は13億ドル。しかし同社はこの年、収益性の高いブロック玩具事業から手を広げて、さまざまな周辺分野への投資を始める。テーマパーク、テレビ番組、腕時計、小売店、ブロックとは無関係のプラスチック玩具、ビデオゲーム、さらにはスティーブン・スピルバーグとのタイアップによる「ムービーメーカー」まで。

 これらの展開はどれも、中核事業からリソースを奪った。しかも、ほぼすべてが失敗に終わる。現CEOのクヌッドストープによれば、レゴグループは1993年から2003年の間、1日当たり平均30万ユーロ相当の価値を毀損していたという。まさに失速である。

 クヌッドストープは2004年にCEOに着任すると、すぐさま方針を決めた。中核への回帰だ。その目標に向けて、彼は新たな経営チームを設置し、協力して自社のエネルギーを1点に集中させていく。レゴを偉大にした1つの中核製品、レゴブロックである。

 クヌッドストープと経営チームは、まず資産のポートフォリオから手をつけた。テーマパーク事業の一部を売却し、その他の周辺事業を閉鎖し、拡張計画を停止した。

 その後、中核事業を掘り下げていく。レゴセットのパーツの種類は、1997年の約6000種から2004年には1万4000種以上に増え、色も6色から50色にまで増えていることに経営チームは気づいた。しかも、これらのパーツの90%は1度しか使われていないことも判明した。そこでチームは、事業と研究プロジェクトの廃止や玩具製品ラインのスリム化に加え、ブロックのパーツも50%以上減らした。

 チームはこの時点から、製品やパーツの追加を判断するための規則をつくり始めた。パーツ1種類当たりのコストはかなり高い。個々に異なる金型が必要で、製造現場ではスケジューリングと在庫管理が複雑化するためだ。今日、全レゴ製品のパーツの70%は共通パーツで構成されている。

 経営チームはその後、レゴブロックの製品ラインと向き合う。ウェブ上で、顧客に独自のレゴセットをデザインできる機能を提供した。さらに、他者がデザインしたセットを組み立てるためのブロックを注文できるようにした。最も熱烈な何千人ものレゴファンからインプットを求めた。そして、中核と密接に結びつく周辺分野に限って展開し始めた。女の子向けのレゴセット「フレンズ」、新たなミニフィギュアのパーツセット、映画『LEGOムービー』へのライセンス供与などだ。

 成果は目を見張るものであった。クヌッドストープのCEO着任以降、レゴの収益は400%増大し、営業利益率は-21%から34%へと上昇した。「成長のための縮小」には、これほどの威力があるのだ。

 まずは複雑さを削ぎ落とし、次に中核の中核へと回帰する。このアプローチ、つまり成長のための縮小は、失速から脱した多くの企業が採用している。IBM、アップル、チャールズ・シュワブなどがよい例だ。

 ●新たなケイパビリティに多大な投資をする

 失速中の企業は多くの問題を抱えているが、その解決に必要な手段がすべてそろっていることは稀である。これらの企業はたいてい、自社のビジネスモデルを新たな環境へと適応させるうえで不可欠なケイパビリティ(組織能力)が、少なくとも1つは欠けていることに気づく。

 我々が研究対象とした、失速からの逆転に成功した50の事例のほとんどにおいて、少なくとも1つの新たな主要ケイパビリティが必要であった。失速の最中に新たなケイパビリティに集中することは、きわめて難しい。しかしそれをしなければ、他のすべての試みが無駄になりかねないのだ。

 カメラ業界において、新たなケイパビリティの獲得がいかに有効かを示す優れた事例が、ライカである。約100年前、ライカは初の軽量カメラを発売した。その最も際立った特徴はレンズの品質で、小さなフィルム画像でも解像度をさほど失わずに引き伸ばすことができた。ライカはその画像品質により、20世紀の偉大な写真家たちに選ばれるカメラとなった。

 しかしデジタル写真の技術が登場すると、同社はその流れに乗り遅れ、2006年になってようやく自社のカメラに採り入れる。従来型の写真店の衰退、インターネットの普及、カメラ安売り業者の興隆も、問題に輪をかけた。

 ライカは最高の価格帯でカメラを製造し、時代の変化に適応しなかったため、1990年代を通じて赤字であった。2005年から2007年にかけて、収益は1億4400万ユーロから9000万ユーロへと減少し、毎年1000万~2000万ユーロの損失を計上。失速に陥っていた。

 2006年に、オーストリア人投資家アンドレアス・カウフマンがライカの経営権を取得した。ライカは他社にない資産を持ち、それらはライカ再建の土台にできる、という信念が彼にはあった。その資産とは、ブランド力、比類なき画像品質、偉大な写真家たちとの伝統、レンズの品質だ。

 カウフマンは、市場のトップエンドに重点を置いて再建を推し進めた。2011年、非公開株投資会社ブラックストーンがライカに1億6000万ユーロを投資。この資本により、新たなケイパビリティを手に入れることができた。オートフォーカス(ライカMシステムのデジタル版といえる)によって製品ラインを拡充し、自社ブランド店舗によって流通チャネルを強化したのだ。今日、ライカの収益は低迷期の3倍に増大しており、ふたたび堅実な利益を上げている。

 失速中には万事が簡単にはいかない。そこから抜け出すことは、リーダーにとって最大の難題であろう。同時に、多くのリーダーがキャリア上で直面することでもある。しかし、企業が失速から立ち直り持続可能な成長の道へと戻る過程は、価値が最もプラスに転じる契機でもある。

 危機につながった内部の元凶を理解し対処するなら、そこには好機が見えてくるのだ。


HBR.ORG原文:How to Pull Your Company Out of a Tailspin September 08, 2016

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クリス・ズック(Chris Zook)
ベイン・アンド・カンパニーのパートナー。ボストンを拠点とし、グローバル戦略プラクティスの共同リーダーを20年にわたり務める。共著邦訳に『創業メンタリティ』『本業再強化の戦略』(以上、日経BP社)、『リピータビリティ』(プレジデント社)などがある。