VRに時間軸を導入し、過去の世界をリアルに体験

――「VR2.0」を迎え、「ポケモンGO」によってAR技術が普及したいま、VR研究の未来はどこを目指しているのですか。

 一つは「時間軸」です。我々の世界は空間と時間からできています。移動手段を用いればどこでも行けるけれど、時間を遡ることはできません。しかし、VRを使えば時間を自由に航行し、過去の世界もきわめてリアルに体験することが可能です。IoTの技術を利用して、センサーであらゆるデータを最大限漏らさず記録しておけば、後から体験することも可能でしょう。

 最近は、VR研究もコンテンツの比重が大きくなり、ミュージアム周辺の人たちとつき合う機会が増えました。ミュージアムは、過去のものを陳列しています。デジタルミュージアムとしてVRを活用する機会は多いのです。歴史をもう一度遡って体験することが、時間軸コンテンツです。

 半分趣味を兼ねて鉄道博物館と一緒にやったのが「電車の思い出のぞき窓」です。窓枠に似た携帯端末を展示車両にかざすと、画面上に車両が活躍していた当時の姿が映し出されます。そして、車両の進行方向に端末を動かすと、画面のなかの車両が走り出す。そうしたモノとコトが複合したミュージアム展示を手掛けました。若い頃、私は歴史にあまり興味を持てませんでした。それは歴史が教科書のように文章で記述されているからであって、VRになるとこんなに歴史は面白いのかと見直しているところです。

 もう一つは「情動プロアクティブ」、人の心に作用するVRです。これは、これまでのVRが単純なインタラクティブであったのに対し、能動的なVR環境はないのかという研究です。VRのほうから人間に働きかけるのです。これは新しいインタフェースの研究ということもできます。自動運転技術が進化したとしても、すべて自動運転に任せたほうがいいかどうかは哲学の問題です。とはいえ、重大な事故を未然に防ぐために、人は感知していないけれど、機械が感知したことをいかに伝えるかは重要なことです。「完全な自動運転はいやだ」という人に対し、本人が気づかないうちに、ブレーキをかけるように仕向ける雰囲気をつくることがVRでできないか考えているところです。まさに心理学と工学の接点にある技術です。

――VRに時間軸の概念を導入すると、私たちの生活にどのような影響が現れますか。

 時間軸の概念は、過去を遡るだけでなく未来予測も可能にします。予測された世界を体験することによって、いまのところ現在しか見えていない我々は、より賢く行動できるようになるでしょう。「レシートログと消費予測」というプロジェクトでは、レシートをOCRすることで購買履歴を記録し、未来に「どこで・どのくらい」お金を使いそうか予測・提示します。このシステムの予測が正しいかどうかは第一義的ではありません。大事なのは消費性向を把握し、注意を促して改善につなげること、どう行動の変容につなげるかです。この辺はプロアクティブ技術と関係しますね。

 「ポケモンGO」の地域創生にも関連しますが、先の鉄博の展示やスマホ用のアプリ「万世橋・交通博物館の思い出のぞき窓」などは、実際に現地に足を運んで、スマホをかざすことになりますから、人々の行動を誘発する効果があります。ここにもプロアクティブなツールとしての可能性があるわけです。

 また、高齢者に過去の風景を見せると、若い頃を思い出して元気になるといった効果もあるそうです。高齢化時代に需要は増えるでしょうね。

(構成/堀田栄治 撮影/宇佐見利明)