では、2つのテストのうち一方だけで倫理的正当化の傾向が問題となったのは、なぜだろうか。

 その可能性の1つとして、それぞれの課題で誘発された不正行為に伴う「本気度」の差が挙げられる。アナグラムの作業では、被験者は自分の成績を実際に偽る必要があった。かたやビジネスの状況に関する課題では、非倫理的行為もやむを得ないという「意思」だけを述べればよいため、実際に不正を働くよりもハードルが低かったと考えられる。

 後者の課題では、不正行為の意図を示すインセンティブとして、「困難な達成目標」で十分だったのかもしれない。しかしアナグラムの課題においては、倫理的に正当化できた被験者だけが、実際に嘘をつく気になった可能性がある。

 職場における非倫理的行為の広がり、そしてその代償を踏まえれば、筆者らが得た知見は企業にとって重要な意味を持つ。目標設定という慣行をやめてしまうのは合理的ではない。重要なのは、目標がもたらす意図せざる悪影響を考慮し、リスクを最小限に抑える手段を用意することである。

 目標達成のための不正行為は、倫理的正当化を通して「やむを得ないこと」とされてしまう。したがって、「倫理は目標達成より優先される」ということを強調すれば、その種の正当化の機会を減らすことができるだろう。これを実現するには、倫理的行動を組織文化に根づかせることが求められる。そうであってこそ、どのような行動が評価・受容されるのかが従業員に伝わるからである。

 研究が示すもう1つの知見がある。目標達成に向け尽力している従業員について、そこでどんな手段が用いられているかを監督するのが賢明かもしれないということだ。

 ただし上記の示唆を検討する際、筆者らの研究には限界があることも念頭に置かれたい。特に、被験者の経験を重視したテストを企図したため、実験の設計には実際の職場の状況を組み入れていない。現実世界において、より重大な結果をもたらす不正行為を検討している人には、その行為を阻む心理的ハードルが実験よりも強く働くだろう。

 また、不正行為の原因が倫理的正当化である、と言い切れるものでもない。たまたま倫理的正当化の傾向が強い人物が、他の原因で不正行為を行い、事後にそれを正当化している可能性もある。さらに、目標達成のための不正行為をもっと促進(または抑制)する、他の性格特性が存在するかもしれない。そして今回の研究はサンプルサイズが比較的小さいため、被験者を増やして再度実験を行えば結果の信頼性が高まるだろう。

 先頃のフォルクスワーゲンの排ガス不正をはじめ、企業の悪行を報じるニュースは世界中で後を絶たない。その様子を見る限り、不正行為は根強い問題であり、事業、顧客、そして社会に大きな損害を与えている。

 筆者らの研究結果からわかるのは、不正行為は企業の慣行と個人の性格特性が相まって生じているということだ。したがって研究者と実務家は、不正行為につながりやすい慣行と性格特性を見極めていく必要がある。そして今後の不祥事を防ぐために、制度・組織・人事における措置を設けることが不可欠である。


HBR.ORG原文:When Tough Performance Goals Lead to Cheating September 08, 2016

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コルム・ヒーリー(Colm Healy)
EY(アーンスト・アンド・ヤング)ダブリン支社のピープル・アドバイザリー・サービス部門シニアコンサルタント。変革マネジメントとプロセス改革を専門とする。

カレン・ニブン(Karen Niven)
マンチェスター大学アライアンス・マンチェスター・ビジネススクール准教授。組織心理学を担当。主な研究分野は、職場における感情、および攻撃的・非倫理的行動。