『ヒューマン・リレーションズ』誌で最近発表されたこの研究では、「スローン500ファミリー・スタディ」(全米各地の中産階級・共働き家庭を対象とした調査)に回答した600人以上の従業員を分析対象とした(英語論文)。ブランドン・スミット率いる研究チームが実験で焦点を当てたのは、勤務中にどんな思念(仕事に関することか、そうでないことか)が浮かび、仕事にどう影響したかに関する参加者からの報告だ。

 分析結果によれば、家庭と仕事の境界がより曖昧な人ほど、認知上の役割転換をより多く経験したが、それによって消耗する度合いは低かった(境界の度合いについては、事前に質問票調査を実施)。また、仕事と私生活の分離に努めている人ほど、認知上の役割転換にはより多くの労力を要し、そのため仕事に支障を来たす傾向が強かった。

 役割転換がより頻繁に起きる人ほど、2つの役割間でより効率よく切り替える術を見出していた。その理由はこう考えられる。彼らは仕事と私生活がより密接に結びつき、分離の度合いが低いため、家庭にまつわる思念が浮かんでも振り払うのが容易なのだ。そして、またすぐに家庭上の役割が発現することも自覚している(そのことに慣れている)。

 境界がより曖昧だった人ほど、勤務中に家庭のことが浮かんでも仕事への支障が少なかったのは、上記が理由と思われる。加えて、より頻繁に役割転換を経験しているうちに、それほど意志力を要せずに思念を振り払えるようになったのかもしれない(まるで筋トレの成果のように)。

 研究チームはこう記している。「従業員に対し、ぼんやりと思考をさまよわせることや、家から時折かかってくる電話に出ることを許可するほうが、厳格で融通の利かない境界線を強いるよりも、長期的には得策かもしれない。後者の方針を採れば、公私の両方をうまくやり繰りする方法の開発を妨げるおそれがある」

 この研究結果は、企業に対して、フレックスタイム制や在宅勤務といった、柔軟な就業制度のさらなるメリットも示唆している。個々人にとっては、職場で(あるいは家庭で)思考のさまよいが正当化されるだけでなく、多少の「許し」も意味する。仕事に私生活が入り込むことを自分に許せば、長期的には生産性が上がるかもしれないのだから。


HBR.ORG原文:Research: Keeping Work and Life Separate Is More Trouble than It’s Worth August 09, 2016

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デイビッド・バーカス(David Burkus)
オーラル・ロバーツ大学の准教授。経営学を担当。近著にUnder New Management、既刊邦訳に『どうしてあの人はクリエイティブなのか?』がある