メルボルンに本社を置くグローバル金融機関、オーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)のリーダー人材の例を見てみよう。同社は潜在能力が高いと見込まれる社員を昇格させる時、「同じ職種で予算・リソースがより大きなポスト」ではなく、まったく新しい挑戦が求められる仕事に就かせている。海外への転勤、スタッフ業務からライン業務への異動、事業再建部門から新規事業創出部門への異動などだ。

 ゼネラル・エレクトリック(GE)、ユニリーバ、マッキンゼー・アンド・カンパニーなども同様のやり方をしている。最も潜在能力の高い人材に、これまでと異なる分野、会社、市場、状況、職能を経験させる。そうすることで、自社を「リーダーシップ育成工場」にしているのだ。

 別の例として、マルセロ・マルティネス・モスケーラの経歴を紹介しよう。生産工学の学位を取得後、彼はミラノに本社を置く多国籍複合企業テチントに就職。すぐに高い潜在能力を認められ、早い段階からどの任務でも新しい環境と複雑性を経験させられた。財務、営業、マーケティング、さらには生産分野の職務にも配置転換され、地元アルゼンチンだけでなく米国市場や欧州の主要なクライアントにも触れる。ロシアと中国への輸出事業の立ち上げにも参加を任じられた。

 これらの経験を通して、クライアントと競合する新規事業の立ち上げという、きわめて重要かつデリケートな仕事の舵取りができるだけの能力を培ったのである。それらの任務を成功させた彼が、すぐに同グループの最上級幹部へと上り詰めたのも意外ではない。

 自分や周囲の学習と成長を本当に望むなら、上記のような変化の機会を(もっと小規模でも構わないので)見出すべきである。ラム・チャラン、ステファン・ドロッター、ジェームズ・ノエルの共著『リーダーを育てる会社 つぶす会社』で見事に説明されている、リーダーシップの6つのステップを考えてみるとよい。自分自身の管理から始まり、次にチームの管理、マネジャーの管理、職能部長、事業部長、事業統括者、そして最終的にトップまで上り詰めた場合には経営責任者になる。

 これら6段階の変化を遂げる方法を、あなたは見つけ出せるだろうか。チームのメンバーにも同じことを後押しできるだろうか。また、自分や周囲にとって現状よりもハードルが高く、新たな「筋肉」がつけられそうな、短期間・プロジェクト単位の課題を見つけるとよい。面白さと挑戦しがいのある仕事だ。

 日本のような世界有数の先進国においても免れない、数多くの企業が陥りがちな過ちに気をつけよう。リーダーの能力開発を最も後押しするのは常に、仕事の大きさよりも、複雑さである。そのことを心に留めてほしい。


原注:本記事は、It's Not the How or the What But the Who: Succeed by Surrounding Yourself with the Best(Harvard Business Review Press, 2014)から抜粋・編集している。

訳注:潜在能力の見極め方と育成法の詳細は、同著者による本誌2015年5月号論文「人材は潜在能力で見極める」を参照。


HBR.ORG原文:To Grow as a Leader, Seek More Complex Assignments July 20, 2016

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クラウディオ・フェルナンデス=アラオス(Claudio Fernández-Aráoz)
経営人材コンサルティング会社、エゴンゼンダーのシニアアドバイザー。著書にIt's Not the How or the What But the Who: Succeed by Surrounding Yourself with the Best、既刊邦訳に『人選力 最強の経営陣をつくる』がある。