●ビッグデータからの意外な発見

 どこのホテルも朝食を提供しているが、この点について深く考えているところは少ない。結局、朝食がどんなに素晴らしくても、ミシュランの星の獲得にはつながらない。加えて、当ホテルのほとんどの部屋は朝食込みである。つまり、収益には大してプラスにはならない。一方、素晴らしいディナーは収益を生み、ホテルの評判を高めもする。したがって、ディナー体験には多くの配慮とリソースが投じられる。

 だがそれは結局、誤ったやり方なのだ。メティースが我々を正してくれた。

 彼女の指摘によれば、ザ・ドーチェスターについてのレビューの3件に1件は朝食に言及しており、その頻度はホテル内でのディナーをはるかに上回る。実際、朝食こそが、当ホテルの飲食部門全体に対する宿泊客の認識を決定づけているという。

 我々の認識では、ザ・ドーチェスターが提供する朝食は3種類ある。宿泊客はルームサービスか、ラウンジの「ザ・プロムナード」か、レストランの「ザ・グリル」での朝食のいずれかを選ぶことができ、メニューと体験はそれぞれ異なる。

 だがメティースの説明によれば、宿泊客は上記のような区別をしていない。どこで朝食が提供されようと、メニューは単に材料を知る手がかりに使われているだけだ。どの宿泊客も特定のものを欲している。それは、「慣れ親しんでいる食事」だ。どうやら朝食は、実験や発見の時間ではないらしい。朝食の目的は、人々の心を楽にさせて、1日を始める準備をさせることにある。

 クリスタルスイートにいた幹部たちは、この発見について意見を交わすためにプレゼンを一旦休止させた。朝食をどのように充実させて推薦できるか、その内容を場所によってどう差別化し個々人向けにできるかについて、アイデアが飛び交い始める。

 メティースは我々を驚かせる事実をもう1つ用意していた。それは、ロサンゼルスにある当グループのホテル・ベルエアに滞在した宿泊客の大多数は、ホテルの屋外スペース(具体的には中庭とテラス)、および薪を燃やす暖炉に言及していたということである。これらの設備によってリラックスした気分になり、そのことを「安らぎの場所」「閑静」「オアシス」といった言葉で表していた。

 ホテル・ベルエアはロサンゼルスで唯一、薪の暖炉があるホテルだが、我々はそのことを知らなかったのだ。メティースは当ホテルのウェブサイトを閲覧し、中庭やテラスの写真がないことを発見していた。これを修正し、いまでは見込み客が当サイトを見ると、緑豊かな屋外スペースの写真がすぐに目に入る。

●アナリティクスによる発見を行動に反映する

 コンピュータは、その日が宿泊客の誕生日であることを知らせてくれる。しかし、だから何をすべきかについては教えてくれない。カップケーキにキャンドルを1本立てて出せばよいのか。それをベイクドアラスカ(アイスクリーム菓子)でやるべきか。スタッフがテーブルで「ハッピーバースデー」を歌うべきか。

 当グループのホテルでは、その答えは「ノー」だ。我々の宿泊客はプライバシーを重視している。背後をうろつかれたり、プライベートを邪魔されたりするのを望まない。

 結果を左右するのは、データが示すことそのものではない。データが示していることについて、人がどう対応するかである。標準化への誘惑に抵抗し、自社のビジネスならではの個性を見つけるために、データを活用すべきなのだ。

 ビッグデータを利用すれば、何が重要かという判断の基準を、「自社の思い込み」から「顧客の思考」へと転換しやすくなる。時にはザ・ドーチェスターの朝食のように、大きな思い違いが露わになる。あるいはホテル・ベルエアのように、一部の写真を取り換えるだけで済む場合もある。


HBR.ORG原文:Using an Algorithm to Figure Out What Luxury Customers Really Want July 18, 2016

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アナ・ブラント(Ana Brant)
ロンドンに本拠を置くドーチェスター・コレクションの、グローバル顧客体験およびイノベーション担当ディレクター。以前はザ・ニューヨーク・パレスの品質担当マネジャー、ザ・ビバリーヒルズ・ホテルとホテル・ベルエアの品質担当エリアディレクターを歴任。