まずは、取り扱う商品を見つけることから始まった。

 インドの国産商品は不足してはいないが、ほとんどの販売業者は小規模である。3年前の2013年には、インドで商品をオンライン販売する小売業者は少数であった。なぜなら、eコマースは複雑すぎで時間もかかると思い込んでいたためだ。また、インドの現金至上主義もオンライン取引を阻んでいた。

 アマゾンはこうした課題に対処するため、2013年にインドでアマゾンのサイトを立ち上げたのち、あるプログラムを展開した。サプライヤーを募り、アマゾンは商品の市場拡大に役立つ信頼のおけるパートナーです、と説得する活動だ。

 この取り組みは「アマゾン・チャイ・カート」の名で遂行された。お茶を載せた移動式屋台で街路を巡回し、小規模事業主にお茶を振る舞いながら、eコマースの利点を教えるのだ。報告によれば、チャイ・カートのチームは31都市で計1万5千キロ以上も移動し、1万超の売り手と交流したという。

 さらに、売り手の迅速なオンライン化と関連課題への対処を助けるため、2015年、アマゾンは「アマゾン・タットカル」を開始した。「移動スタジオ」と同社が形容するトラックで国内を巡回し、アマゾンで商品を売るための立ち上げサービス一式を提供したのだ。登録、画像作成、目録作成、販売トレーニングなどである。

 これに留まらず、アマゾンは配送とフルフィルメントについてもインドに適応させる必要があった。米国では、「フルフィルメント・バイ・アマゾン」(FBA)という名の一元化された物流プラットフォームで商品を保管・配送している。売り手はアマゾンのフルフィルメントセンターに商品を送り、保管・収集・梱包・発送の手数料を支払う。アマゾンはインドでもFBAを導入し、これまでに20ヵ所以上の倉庫を設けた。その最大のものはテランガーナ州のコサーにある。

 同時に、米国流のフルフィルメントのプラットフォームをインドに合わせローカライズもした。「イージー・シップ」と「セラー・フレックス」の導入である。前者は、アマゾンの運送業者が梱包済み商品を売り手の事業拠点で回収し、消費者に届ける仕組みだ。後者は、販売業者が自社の倉庫の一部をアマゾン・インド専用の商品スペースとして指定し、アマゾンが配達の調整を請け負うサービスである。この「近隣」単位のアプローチは、売り手にとって便利であり、アマゾン側も一部の商品の配達を迅速化できている。

 アマゾンはインドで、多数の大手配送サービスと契約を結んでいる。そこには国営のインディアポストや、貨物航空のブルーダートも含まれる。2015年、同社は配送力を強化するために、有限会社アマゾン・トランスポーテーション・サービシズを設立した。この新たな子会社は都市部と地方の両方で、最終目的地への配達に自転車便とバイク便を活用している。だが農村地域では、文字通り「踏みならされていない道」も多いことが特に課題となっている。

 インドには小さな店が大量に散在している。その大多数、1400万軒以上が約17坪未満という小ささだ。このような小規模店は「高い値段、限られた在庫品」が典型だが、多くの農村地域では町で唯一の買い物場所である。政府によるFDI規制は、このようなよろず屋の店主を守るのも目的の1つだ。アマゾン・インドが登場した時にインドの人々の多くは、この巨大オンライン企業が自分たちを廃業に追い込むのではないかと怖れた。

 しかしアマゾンは、小規模店を追い込むのではなく、配達プラットフォームのパートナーとして協力を求めたのだ。インターネット環境を持つ人がほとんどいない小さな村や人里離れた地域では、住民は最寄りの店へ行けば、店のインターネットを使ってアマゾン・インドの商品を閲覧し選ぶことができるようになった。店は顧客の注文を記録し、商品が店に届いたら顧客に知らせ、現金で支払いを回収し、手数料を得て残りの金額をアマゾンに渡す。このやり方であれば、現金経済でeコマースを行うことの問題をうまく回避できる。しかも、客の店内滞在時における店側の売上げも増えたことが報告されている。

 このようにアマゾンは、インドでのeコマースに伴う諸問題に対処するため、商品から配達に至るまで自社のエコシステムを再開発した。2016年6月には、さらに30億ドルをインド事業に投じると発表し、「インド市場の膨大なポテンシャル」に対する継続的な信念を示した。その投資額と尽力は、フリップカートやスナップディールといった競合他社を凌いでいる。

 理由は、それほど大きなリターンが見込まれるからだ。グーグルとA.T.カーニーによる最近の共同研究では、インドのオンライン小売販売における購入者は、2020年までに1億7500万人に増えると予測されている。これは現在の3倍である。同年までに、eコマースの規模は1000億ドルを上回るというのが大方の期待だ。モルガン・スタンレー・リサーチは1370億ドルと見込んでいる。

 しかもインドでは、モバイルウォレットのユーザー数がクレジットカードのそれをすでに上回り、ますます普及している。この事実を考え合わせれば、リターンはさらに高くても不思議ではない。


HBR.ORG原文:How Amazon Adapted Its Business Model to India July 20, 2016

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ビジャイ・ゴビンダラジャン(Vijay Govindarajan)
ダートマス大学タック・スクール・オブ・ビジネスのコックス記念特別教授。ハーバード・ビジネススクールのマービン・バウワー・フェローも務める。著書は最新刊The Three Box Solution(HBR Press, 2016)、Reverse Innovation(邦訳『リバース・イノベーション』ダイヤモンド社、2012年)他多数。

アニタ・ウォーレン(Anita Warren)
ニューハンプシャーを拠点とするビジネスライター兼マーケティング・コンサルタント。