3.業界で起きている根本的な変化

 第3の説明は、上記2点にも立脚しており、私にとっては最も納得がいくものだ。先述したように、破壊的なライバルを売上高の5倍で買収するような案件は、シリコンバレーでは珍しくない。そして本件はまさに、シリコンバレー的な打ち手、すなわちデジタル戦略である、というのが最もよい解釈なのだ。ユニリーバの動きは、消費財業界で進む根本的な変化を告げている。

 ダラーシェーブクラブは、髭剃り市場はまだ変革できるということを証明した。それを可能にするのは、オンラインでの定額課金というモデル、印象的なブランド、優れた消費者体験だ。その証拠をもっと加えれば、ジレットはカミソリのブランドで1位を守ってはいるものの、2010年には71%だった米国内シェアを2015年には59%にまで落としている(なお参考までに、P&G〔プロクター・アンド・ギャンブル〕傘下のジレットは2015年12月、ダラーシェーブクラブを特許侵害で提訴した。2016年2月に後者はP&Gを反訴)。

 P&Gはダラーシェーブクラブの市場侵食に対抗すべく、独自のサブスクリプションサービスとして「ジレットシェーブクラブ」を2014年に立ち上げている。さらには、このアイデアを別のカテゴリーにも拡大し、洗剤タイドの定期補充サービス「タイドウォッシュクラブ」を開始した。この流れに他社も参戦し、たとえば髭剃りのECスタートアップ、ハリーズによるサブスクリプションサービスの「シェーブプラン」などが現れた。

 時を同じくして、オンライン小売りの最大手アマゾンも、消費財企業の手強いライバルとなりつつある。自社でオムツや洗剤、食品のPB(プライベートブランド)商品を展開し始め、定期補充が必要なそれらの必需品を自社の「定期おトク便」サービスと組み合わせている。

 こうした数々の変遷は、消費財の古典的なビジネスモデルがもうすぐ破たんするであろうことを示唆している。小売業者とサプライヤーの両方が、消費者とのデジタルでのつながりを武器に、バリューチェーンにおける互いの従来のポジションに侵入しようと狙っているのだ。

 ユニリーバに関しては、今回の動きは防衛策だけではないと思われる。

 同社のような消費財企業は、顧客とのデジタル上の関係を構築する必要がある。Eメールやソーシャルメディアでのつながり、商品の使用データ、ユーザーエンゲージメントなどによって、デジタルの痕跡が生まれる。それらを解析すれば、特定の人口区分に細かく合わせた広告、プロモーション、ロイヤルティ施策に活用できる。やがては製品自体も、顧客データの解析結果に沿ってカスタマイズされるだろう。

 加えて、この買収からは米国内市場でのシェア以外にも、成長の方向性が2つ開かれる。

 1つは、地理的な可能性だ。消費財業界にとって、新興国市場は膨大な成長性が見込める。ユニリーバの最も有望な市場の1つ、中国を考えてみよう。中国の景気後退によって、実店舗での小売業の売上高は落ち込んでいる。しかしオンラインでの売上高は、全四半期で前年比40%以上の伸びが期待されている。

『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙によれば、ユニリーバの中国におけるオンラインでの売上高は、年間1億6100万ドルに達している(2015年6月報道時点)。ダラーシェーブクラブの買収によって、同社はこのチャンスに乗じるための「デジタル販売力」を強化できる。

 2つ目は、先述したが、同社の目指す「高利益率製品の拡充」だ。CEOのポール・ポールマンは今回の買収について、サブスクリプションのモデルを自社の高級ラインにも拡大したいという意図を語っている(英語記事)。予測分析を用いて顧客の嗜好を特定すれば、製品をカスタマイズしてプレミアム料金を設定するチャンスはすぐに広がるだろう。

 結論として、こう言える。

 ユニリーバは比較的低いリスク(自社の資産の2%未満という投資額)で、まったく新しい方法によるデジタル展開を可能にする組織、技術力、ビジネスモデルを持つスタートアップを取り込んだのである。

 とはいえ、この大胆な買収を最大限に活かすには、カミソリの刃の上を行くような舵取りが必要となる。1880年代に生まれたユニリーバのビジネスモデルは、いまや400のブランドと20億人の利用者を擁する。この伝統を毀損せずに、清潔な髭剃り以上の価値を提供するクラブというデジタル事業をいかに成長させるか――それが問われているのだ。


HBR.ORG原文:Unilever’s Big Strategic Bet on the Dollar Shave Club July 28, 2016

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バスカー・チャクラバルティ(Bhaskar Chakravorti)
タフツ大学フレッチャー・スクール上級副学部長。インターナショナル・ビジネス&ファイナンスを担当。同スクールのインスティテュート・フォー・ビジネス・イン・ザ・グローバル・コンテキストを創設しエグゼクティブ・ディレクターを務める。著書にThe Slow Pace of Fast Changeがある。