ヒットするイノベーションは、馴染み深さと新規性、古さと新しさを兼ね備えている。つまり、ちょうどいい具合に個性的なのだ。あまりに他と違いすぎると、人々の思考や行動の変化が求められるため、失敗することが多い。iPhoneの先祖にあたる、アップルのニュートンがその例である。発売当時、人々はなぜこの製品が必要で、自分の生活にどう取り入れればいいのか理解できなかった。セグウェイも同様の課題に直面したといえる。

 反対に、他の商品と似すぎていると、乗り換えるに値する理由を十分に提供できない。今年のソフトウェアが昨年のものと大差なければ、アップグレードする理由は見当たらないだろう。競合他社の製品が同じような機能を同等の価格で提供していたら、乗り換える理由はない。

 古典童話の『ゴルディロックスと3匹のくま』で描かれているとおり、熱すぎず冷たすぎず、その中間がちょうどいいということだ(くまの家族の留守宅に入った少女ゴルディロックスは、おかゆ、椅子、ベッドが3つある中から、それぞれ中庸の〈温度や硬さがちょうどよい〉ものを選ぶ。このことから、経済やマーケティングでも「ちょうどよい加減」を指してゴルディロックスと形容される)。馴染み深さをかき立てる程度に他の商品と似ていて、新しく見える程度に他と違う――これが最適なのだ。

 このことは、研究開発やデザインから、マーケティング、販売に至るあらゆる分野で重要な意味を持つ。ホーシー・ホースレスの例のように、斬新なイノベーションやアイデアをうまく導入するには、違いに馴染み深さを付与する必要が往々にしてある。「変更を類似性で覆い隠す」のだ。

 たとえば、新しい番組予約システムを搭載したティーボ(TiVo)のDVR(デジタルビデオレコーダー)は、外観を従来のVCR(ビデオカセットレコーダー)そっくりにすることで、消費者に商品を理解・購入させることに成功した。機器をVCRに似せる必要はそもそもなかった。しかし消費者は、新しい予約システムの扱いに慣れていない。そこで、VCRとの類似性を持たせることで消費者の理解を深めて、スムーズな乗り換えを後押ししたのだ。

 また、その呼称を「デジタルビデオレコーダー」という、あまり差別化を感じさせないものにしたことも、従来の方法との共通性を強調する効果があった。

 非連続的イノベーションや、大々的な変化をもたらす製品・サービスは、従来の消費者の慣行と切り離すよりも一緒にして提供するほうが、普及を早めることになるのだ。

 一方、斬新的イノベーションや、従来の慣行を多少改善するようなものの場合は、違いを強調するほうが重要だ。

 アップルが1998年に発売したiMacは、技術的な改良はわずかだった。そこで同社は、製品そのものではなくデザインでの差別化を図った。お決まりの黒やグレーの箱形ではなく、グミキャンディーのような形状で、「タンジェリン」や「ストロベリー」などの豊富なカラーリングを採用。その結果、技術的にはさほど新しくないものを、デザインによって適度に個性的に仕立て、最終的に成功へとつなげたのである。

 ある製品やサービスのデザインにおいて、違いを強調すべきか、類似性を強調すべきなのか。かつて誰も見たことのない、破壊的なものとして売り込むほうがよいのか。すでに顧客が慣れ親しんでいる商品の、新バージョンとして打ち出すべきなのか――。

 その答えは、商品、デザイン、マーケティングの兼ね合い、そして、そのイノベーションが消費者の既存の慣行とどれほど共通しているかによる。

 違いを大きく出しすぎると、馴染みにくい、リスクが高い、複雑すぎると感じさせる。似すぎていれば、面白みがない、古くさい、遅れていると見なされる。その中間くらいがちょうどよく、適度に個性的だと見てもらえる。

 少女ゴルディロックスからは、誰もが何らかの教訓を得られるだろう。


HBR.ORG原文:The Goldilocks Theory of Product Success July 07, 2016

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ジョーナ・バーガー(Jonah Berger)
ペンシルバニア大学ウォートン・スクールのマーケティング教授。著書にベストセラーとなった『なぜ「あれ」は流行るのか?』、新著にInvisible Influence: The Hidden Factors that Shape Behaviorがある。