テレワークの導入によって
マネジメントを適正化する

 テレワークの導入にはICTの環境整備が欠かせないと思いますが、その機能的な問題や金額の問題が拡大の障害となっているとは考えられませんか。

 テレワークを支援するテクノロジーに関しては十分に進化しているといえるでしょう。必要なソフトウエアと十分な速度の回線を用意し、いつでも必要なときに相互にコンタクトできる。そういう状態をつくっておけばそれで十分のはずです。また、ソフトウエア、ハードウエア共に値段は大幅に下がってきており、そうした設備を導入するとしても、莫大な投資が必要という状況ではありません。

 では、中間管理職が導入に消極的にならないための対策にはどのようなものがありますか。

 マネジメントの方法ですが、これも実はそれほど特別な仕組みが必要なわけではありません。ただ、これまでは毎日オフィスで顔を合わせて、その中で評価したりされたりするという仕組みの中で過ごしてきたわけですから、いきなりその習慣を変えてそれに対応しろと言われても戸惑うのも無理はありません。

 ですので、テレワークに対応する新しいマネジメントに慣れるためのトレーニングは必要かもしれませんね。例えば、テレワークに懐疑的な人は「人は他人の目が届かないところでは仕事をしないのでは」と考えていますが、それは逆で、テレワーク環境はむしろ仕事に集中できるので、おのずと仕事の時間も長くなる傾向にあります。従って、テレワークにおける労働管理は、「いかに仕事に集中させるか」ではなく「いかに長時間労働を抑制するか」という視点で考えられなければなりません。このような考え方の転換は、トレーニングによって身に付けさせるべきでしょうし、そうしたトレーニングによって、中間管理職の心理的なハードルも下がることが期待できます。

 部下の仕事の流れを把握し、遅れが出たら適宜調整する。そうして、出された成果を正しく評価する。テレワークが導入されたところで、マネジメントやコミュニケーションの目的や手法そのものが変わるわけではありません。変わるのはその手段にすぎないことへの理解を深める努力が必要でしょう。

 そもそもテレワーク導入は中間管理職のインセンティブになるようなメリットがたくさんあるはずです。そのメリットが理解され、実際に享受できれば「ハードル」も下がると思うのですが。

 自分が受け持つ部署の生産性が上がる、というのが最大のインセンティブになるでしょうね。テレワークがどれだけ仕事の生産性につながるかというのは、難しい論点ではあります。そもそもテレワークの問題とは関係なく、ホワイトカラーの生産性を測る基準が確立していないからです。しかし、それさえ明確になれば、恐らく、テレワーク導入によって生産性は2割程度上がったという結果が出ると思われます。というのも、世界の各国で、テレワーカーにアンケートを取ると「テレワークによって2割ほど生産性が上がったと感じられる」という答えが非常に多いからです。

 部署の成績が上がっていけば、中間管理職もハッピーになる。結果、テレワーク導入はさらに進む。そんな流れになるのが理想的だと思います。他にテレワーク普及のポイントはありますか。

 テレワークを正しく導入できれば、マネジメントの問題も解消されるという理解を広めることでしょう。部下が常に目の前にいて、仕事というよりも生活を共にすることで、成果と同じかそれ以上に、見た目の印象や振る舞いが評価の対象となってしまう。これは、成果に対する評価の揺らぎにもつながります。成果主義がブームになったときにも語られたことですが、成果を正しく可視化し、それを評価する基準を作る上でテレワークの導入は良いきっかけになるはずです。

 最後にテレワークを含む多様な働き方の実現に、私たち人材サービス会社が果たし得る役割について、お考えをお聞かせください。

 先ほどの成果ベースで評価するという話につながりますが、多様な働き方が実現するためには人材の流動性は不可欠であり、その流動性を支えるのは企業ごとではなく、仕事単位の明確な評価基準です。そうした企業の枠を超えた仕事の評価基準を作ることができるのは、まさに人材サービス会社なのではないでしょうか。

 それを多くの企業が活用していけば、その基準がスタンダードとなっていく可能性も大いにあると思います。これは、行政ではなくあくまで民間サイドで市場原理をベースとして取り組むべき課題だと考えます。安倍首相が最近語りだした同一労働・同一賃金も、こうした評価基準がなければ実現は難しいでしょう。

 もう1つは、個人にひも付いたキャリアプラットフォームのようなものを作ることです。オープンなキャリアプラットフォームがあることによって、それぞれの働き手のキャリアの連続性が可視化され、雇用する側も人材の流動性に対応しやすくなります。そのようなプラットフォームとテレワークが両輪となって、働き方が多様化していく。それが望ましい方向性なのではないでしょうか。

川崎健一郎(Kenichiro Kawasaki)

1976年、東京都生まれ。青山学院大学理工学部を卒業後、ベンチャーセーフネット(現・VSN)に入社。2003年、事業部長としてIT事業部を立ち上げる。常務取締役、専務取締役を経て、2010年3月、VSNの代表取締役社長&CEOに就任。2012年、同社がアデコグループに入り、日本法人の取締役に就任。2014年には現職に就任。VSN代表取締役社長&CEOを兼任している。