テレワークの成果は
目に見えないものばかりではない

 ハードウエアや制度といった機能面の整備が課題ならば対策も見えてきますが、情緒的な要因は取り除くのが難しそうですね。もう1つの理由とは何ですか。

 こちらの方がさらに本質的な問題といっていいと思いますが、多くの企業がテレワーク導入は大きなコスト要因になると考えていることです。

 テレワークを導入するメリットには、育児離職や介護離職を食い止められる、オフィス外で働く人を増やすことによって災害時でも事業が継続できる、多様性を促進しイノベーションを誘発する、といった点が挙げられます。これらのメリットについての認識は行き渡っていると思います。

 それでもなお、多くの経営者はできることならテレワークは導入したくないと考えています。なぜか。莫大なコストがかかるというのがその理由です。しかし、それは単なる思い込みであり、率直に言って誤った認識です。

 テレワーク導入はコスト要因にはならないということですか。

 そうですね。テレワークを本格的に導入することは、間違いなく企業のコストの低減につながります。まず、社員が通勤する際の交通費が削減できるし、オフィスで使う紙や備品も削減できます。しかし、それらはそれほど大きな額ではありません。最も大きいのが、オフィスの維持コストです。会社に来る社員が減れば、それだけワークスペースを削減できるわけですから、当然家賃は下がります。交通の便が良い場所にオフィスを構えている企業にとって、これは大きなコスト削減要素となるはずです。

 なるほど。しかし、そうしたコスト削減も期待しながらテレワークを導入した企業が、実際にはあまりコストが下がらず、むしろその導入のためのコスト負担が大きかったという例も耳にします。

 それも認識不足の1つでしょう。テレワークによるコスト削減には、その導入度合いの閾値があります。それを超えるような目標設定、制度設計になっていなければ、コスト削減効果が生まれません。

 例えば、社員の3割が週に1日程度テレワークをしたとしても、その社員の分のワークスペースは維持し続けなければなりませんよね。従って、コストメリットはまったく生まれないわけです。逆に、中途半端に導入することで、マネジメントの負荷は上がり、情報セキュリティの確保やリモート管理方法の導入費用もかかるので、コストは上がります。多くの企業がその地点で立ち止まってしまうので、結局、テレワーク導入のコストメリットを享受できずに終わってしまうのです。

 では、コストメリットが表れる分岐点はどの程度の導入規模なのでしょうか。

 ある部門で、週3日以上、8割以上の人がテレワークをする。そこがブレークポイントだと私は考えています。つまり、その部門では大多数の人が週の半分以上オフィス外で働いているということです。そこまで行けば、その部門のワークスペースを大幅に削減することができます。そうやって一部門で成功事例を作って、それを横展開して全社に広げていくという方法が有効だと思います。