顧客ニーズから出発することが
イノベーションを成功に導く

日本ヒューレット・パッカードの吉見隆洋氏

 ジェフリー・ムーア氏の熱のこもった基調講演に続いて、日本ヒューレット・パッカードのビジネスデベロップメントエグゼクティブ(エバンジェリスト)である吉見隆洋氏が登壇。ムーア氏が提唱する『Zone to Win』に沿った変革の実例を伝えるべく、「デジタル・トランスフォーメーションのパートナーとして ―Hewlett Packard Enterpriseのアプローチ」と題する講演を行った。

 ムーア氏は基調講演の中で、「“創造的破壊”に対応するには、業務を効率化するITインフラストラクチャーの整備だけでなく、製品やサービスの付加価値を高める『オペレーティングモデル』の変革、さらには、ビジネスそのものの競争力や企業価値を高める『ビジネスモデル』の構築にもITを活用していくのが望ましい」と語っていた。

 これを受けて吉見氏は、Hewlett Packard Enterprise(以下、HPE)が世界中の法人向けに提供してきたさまざまな最先端ITソリューションの中から、「オペレーティングモデル」の構築に関連する代表的な3つの事例を紹介した。

 1つ目は「顧客体験」に関するもので、米国のプロアメリカンフットボールチーム、サンフランシスコ49ersが本拠地とする「リーバイス・スタジアム」の導入事例だ。同スタジアムでは、観客がスマホのナビゲーション機能を使って、スマートな入退場や場内移動、駐車場の空車スペースの確認などができるサービスを提供。試合シーンのリプレイ、観客席にいながら食事を注文できるサービスも用意し、来場者が観戦をそれまで以上に楽しめるように工夫している。これらの観客満足を高める仕組みによって、同スタジアムは米国の「2015 Sports Facility of the Year」に選ばれた。同スタジアムのスマホ関連サービスを支えるには通信インフラの充実が不可欠であったが、そこにはHPEのソリューションが活用されているという。

 2つ目は「製品・サービス」に関連する事例。米国最大のモータースポーツ統括団体であるNASCARがカーレース会場で観客に提供しているスマホサービスなどに対応したソリューションである。同団体が統括するカーレースでは、観客のつぶやきを分析したり、レース中のアクシデントの状況などがスマホで確認でき、放送やソーシャルの情報をリアルタイムに分析・共有できるといったサービスが提供されているが、これらの仕組みもHPEの技術によって支えられている。3つ目に採り上げたのは、世界的な医療機器メーカーであるフィリップスヘルスケアが導入した「運用」関連のソリューション。同社は全世界で約30ヵ国、8億件以上もの臨床試験データを収集し、ワールドワイドに活用している。20ペタバイト(1ペタは1000兆)にも及ぶ膨大なデータを地球規模で効率よく管理・運用して患者中心のヘルスケアを実現しているのも、HPE独自の技術が大きな支えとなっているようだ。

 吉見氏は、これらのソリューションを導入した法人の共通点として、「顧客ニーズだけでなく、社会や業界への貢献を重視する姿勢が表れている」と指摘。「ドラッカーの言葉に『重要な技術進歩や科学進歩を実現したのは市場志向の企業だった』というものがあります。イノベーションを成功させるためには、やはり顧客ニーズから出発することが非常に重要でしょう」と語った。

ムーア氏、吉見氏と本誌岩佐編集長(写真左)によるQ&Aセッション

 フォーラムの締めくくりには、ムーア氏と吉見氏、本誌の岩佐文夫編集長による「Q&Aセッション」が行われた。岩佐編集長の問いかけたテーマにより両スピーカーが議論した後、会場の参加者からの質問に答える質疑応答の時間が設けられた。「デジタル変革にはトップダウンとボトムアップのどちらのアプローチが有効か?」という質問に対してムーア氏は「トップのリーダーシップは常に重要だが、同時に事業のデューデリジェンス(評価)が必要だ」と答えるなど、活発な議論が交わされた。2時間余りのセッションがあっという間に感じられるほど、密度が濃く示唆に富んだフォーラムであった。

(報告/渡辺賢一、撮影/宇佐見利明)