一方、国家経済のレベルでは、この分野における労働力の転換にどれほど抵抗すべきだろうか。

 2015年11月、我々はグローバル・ピーター・ドラッカー・フォーラム(毎年ウィーンで開催される知識人の会議。「経営のダボス会議」として知られつつある)に参加する栄誉に浴し、ドラッカーについて学びを深めた。彼の著作のなかで我々が特に興味を持った1章がある。それは『イノベーションと起業家精神』の終章「起業家社会(Entrepreneurial Society)」である。そこでは、政策立案者はその実現に向けもっと尽力すべき、とされている。

 ドラッカーは1980年代初めに書いたこの章で、起業活動を大きく妨げる要因の1つを特に憂慮している。すなわち、煩わしさを増すばかりの規制に従うための高いコストだ。「先進国で知らぬ間に進行しつつある重病」は、「政府に起因する見えざるコストの着実な増加」であると述べている。(以降、『[新訳]イノベーションと起業家精神』上田惇生訳より。カッコ内は編集部補訳)。

--------------------------------

 それらのコストは、費用としてのコストになっているのみならず、有能な人材に、その時間やエネルギーを費やさせることによって、さらに大きなコストとなっている。

 それらのコストは(政府の予算に反映されないため目に見えない。しかし)、時間の半分を政府の書式や報告書への記入にとられている看護婦の人件費として、開業医の会計のなかに埋もれている。あるいは、16人の上級管理者が政府の命令や規制に協力させられている大学の予算書に隠されている。さらには、275人の従業員のうち19人が会社から給料をもらいながら、実際には政府の徴税人として仲間の従業員の給与から所得税と社会保険料を源泉徴収し、取引業者や顧客の税務番号を照会して政府に報告している中小企業の損益計算書に隠されている。ヨーロッパにおいては、付加価値税まで徴収させられている中小企業の損益計算書のなかに隠されている。

--------------------------------

 ドラッカーの訴えはこうだ。新たなソリューションが切望されている社会では、こうした間接コストは深刻な機会コストになる。「はたして、彼ら企業の税務担当者が、国富なり生産性なりに貢献し、物質的あるいは精神的に社会の福祉に貢献していると考える者がいるだろうか」。政府は、従業員をそうした仕事に従事させるよう企業に強いることで「われわれの最も希少な資源」、つまり高度な訓練を受けた有能人材を、ますます多く「不毛な仕事」に振り向けさせているのだ。

 ドラッカーは同書である解決策を挙げているが、それが実現し難いことは本人も認めている(訳注:企業に対し、「収益の一定割合(たとえば5%)を超えるコストを発生させる規制、報告、事務処理については、そのコストを政府に請求できるようにすること」)。

 しかし30年以上が経ったいま、新たな解決策が浮上してきた。非生産的なコンプライアンス業務を人工知能が担うことで、起業家的なイノベーションの促進につながる可能性があるのだ。しかも、公益をいささかも損なうことなく、である。

 職場にスマートマシンをどう取り入れるべきかを論じる際、我々は常に「自動化」より「拡張」が大事であると強調している。経営者が認知コンピューティングのソリューションを導入する目的は、少ない人員で仕事をやりくりするためであってはならない。従業員により大きな課題に取り組んでもらい、従来よりも大きなインパクトを上げられるようにすることが肝心なのだ。

 コンプライアンス業務にスマートマシンを導入すれば、人間の処理能力を途方もない規模で拡張できる可能性がある。人間を雑事から解放し、より価値創造型のプロジェクトに従事させることで、起業家精神に富む社会を促進できる。そして、人々の幸福を高めるという、私たちが求めてやまないイノベーションを可能にするのだ。


HBR.ORG原文:The Knowledge Jobs Most Likely to Be Automated June 23, 2016

■こちらの記事もおすすめします
オーグメンテーション:人工知能と共存する方法
脱・官僚主義への変革はトップダウンではうまくいかない

 

ジュリア・カービー(Julia Kirby)
ハーバード・ユニバーシティ・プレスのシニアエディター。HBR誌にも長年寄稿している。トーマス・ダベンポートとの共著新刊『AI時代の勝者と敗者 機械に奪われる仕事、生き残る仕事』がある。

 

トーマス・H・ダベンポート(Thomas H. Davenport)
バブソン大学の特別教授。経営学と情報技術を担当。マサチューセッツ工科大学センター・フォー・デジタル・ビジネスのリサーチ・フェロー。デロイト・アナリティクスのシニア・アドバイザー。インターナショナル・インスティテュート・フォー・アナリティクスの共同創設者。ジュリア・カービーとの共著新刊『AI時代の勝者と敗者 機械に奪われる仕事、生き残る仕事』、他多数の経営書を著している。