粗利はイノベーションの付加価値を示す指標
ゲート管理でのコーポレートの役割

藤井 次に、KPIの視点からイノベーションを考えてみたいと思います。新製品・新事業の指標としては、何を重視していますか。

 売上・事業規模や利益額ではなく、新しい製品・事業から生み出される利益“率”を最も重要視しています。規模優先だと、どうしても価格を安くして量を取りたいと発想が安きに流れがち。また、利益額に注目すると、これから市場が立ち上がっていくような、イノベーティブな新製品の存在感は薄れ、それよりも、成熟市場で展開する低利益率の製品が大きく見えてしまう。結果として、イノベーションを殺してしまうケースがあります。イノベーションを促進するためには、あくまでも利益率に着目すべきだと思います。

 新製品立ち上げ時には、一定のプロモーション費用が発生します。販管費が増えるので、その製品の営業利益率は低くなります。したがって、利益率の中でも粗利率が重要な指標になります。粗利はイノベーションの付加価値そのものを示します。想定される粗利が低ければ、それはそのイノベーションに力がないということ。いくら技術部門が「これはイノベーションだ」と訴えても、その粗利が既存製品よりも低い見積もりしか描けなければ、イノベーションとはいえません。粗利が低いということは、お客様に高い付加価値を提供できていない証拠です。

 ファイナンスの観点から見れば営業利益・粗利ともに重要ですが、特にイノベーションの場合には、粗利をしっかり見極める必要があります。

藤井 ゲート管理のプロセスに粗利の意味を理解している人が参加する必要がありそうですね。

 その通りです。ゲート管理のできるだけ早い段階から、ビジネスおよびファイナンス・リテラシーを有する人間が関与することが必要です。3Mでは、事業部門は当然として、コーポレート部門もイノベーション・プロセスに深く関与しています。新しい製品・サービスの価格設定において、コーポレート部門でさえも、きちんと意見を言わなければなりません。営業は売りやすくするために低価格にしたいと考えがちです。そうではなく、技術者の頑張りをきちんと価格に反映させるべきです。「この製品・サービスにはこれだけの価値がある。だから高くても事業として成立する」という議論を、誰かがリードしなければなりません。

 おそらく、多くの日本企業では新製品・新事業への投資を決めた後でコーポレート部門が議論に参加しているのではないかと思います。このような現状も、日本企業の利益率の低さにつながっているのではないでしょうか。

藤井 3Mのようにゲート管理のプロセスをきちんと運用するためには、イノベーション・プロセスの主役となる技術者の側に、ビジネスやファイナンスを理解する能力を持つ人が必要です。一方、ゲート管理を担う側にも、技術やイノベーションに対する深いリテラシーが求められると思います。

 両方とも重要です。「3Mはイノベーションがうまくいっているね」と褒めていただくことがありますが、個々のイノベーションだけでは持続的な利益にはつながりません。技術をかなりの程度まで理解した上で、将来を見据えてビジネスをサポートするコーポレートの体制がなければ、持続的に利益を生み出すことはできないでしょう。イノベーション・カンパニーであり続けることもできません。

藤井 イノベーションの主役は技術者だとしても、コーポレートの関与も含めた全社的なイノベーション・マネジメント体制の構築がきわめて重要ということですね。どうもありがとうございました。