細分化された組織で生まれる
クロスファンクショナルな連携

藤井 最近の日本企業の傾向ですが、顧客基点のイノベーションを志向し、多くの技術者が顧客寄り、マーケット寄りにシフトしています。しかし、それが成果につながっていないという話を聞くことが多い。技術者のマインドセットに問題があるのかもしれません。あるいは、組織や仕組み上の工夫が足りないか。

 技術者の顧客訪問は、3Mでも日常的に行われています。3Mはプロダクトアウトではなく、テクノロジープッシュの企業です。プロダクトアウトなら、技術者が顧客先に出向く必要はなく、営業とマーケティングのチームだけで足りるでしょう。しかし、テクノロジープッシュなので、ある程度技術者が前面に出る必要があります。お客様のニーズや困りごとに対して技術をぶつけることで、イノベーションにつながる新しいアイデアが生まれます。これも、製品と技術を切り離していることによる効用の1つといえるでしょう。

 もちろん、お客様との接点がより多いのは営業やマーケティングの担当者です。営業担当者がお客様の困りごとを見つければ、技術者を訪ねて「ウチの技術で何とかできないか」と相談したりします。また、製品開発のプロセスが進めば、ある段階で製造部門の技術者も入ってきます。コスト面での検討なども必要ですからね。

藤井 顧客接点でクロスファンクショナルな連携が生まれ、そこに技術者も入ってくる。それが形だけのものではなく、しっかり機能している企業は少ないのではないでしょうか。何が3Mにおける連携を実のあるものにしているのでしょうか。

 先ほど述べた自律性を含めたカルチャーもあるでしょうし、もう1つ重要だと思うのは、実は事業部を細かく分けた組織構造にあるのだと思います。3Mのグローバル組織には、24の事業部があります。同規模のグローバル企業と比較すると、かなり細分化されています。当然、単に組織を細かくするだけですとサイロ・メンタリティという課題が生じるのは認識していますが、イノベーション・マネジメントに全社的に取り組んでいるので、組織を細分化することで守備範囲が狭くなり、クロスファンクショナルな連携がより密になります。同時に、より深い議論をしやすくなります。

ゲート管理に求められるバランス
上流では自由に、下流では厳しく

藤井 3Mのイノベーション・マネジメントについて、仕組みの観点でお聞きします。ポイントの1つがゲート管理です。日本企業でよく聞く課題としては、実質的に技術視点でのみ目利きをしており、ビジネス視点が十分入らないというケースが依然として多くあります。また、「技術者に研究を続けさせてあげたい」という親心が働いて、冷静な判断がなされないまま、途中で捨てるべきネタが最後まで残ってしまうことも多い。3Mではどのような制度設計、運用が行われているのでしょうか。

 6つのゲートを設定しています。上流ほど自由度が高く、下流に進むほど厳しい、それが基本です。ゲートの最終局面になると、新製品・新事業が事業部門の予算に組み込まれます。事業部門としては「これを売らないと、予算を達成できない」ということで、厳しくなるのは当然です。何番目のゲートでどの項目をレビューするという基本的なルールは決まっていますが、そこに誰が参加するかは決まっていません。

 事業部門やコーポレート部門のメンバーがどこから参加するかもケース・バイ・ケースです。上流のゲートから事業部長が参加する場合もありますし、ゲート管理のプロセスにはあまり出てこない事業部長もいます。また、コーポレート部門も、あるステージから参加します。

 ゲート管理におけるオーナーシップは事業部門が持ちますが、議論をリードしているのは基本的に技術者です。

藤井 意思決定者としてそれぞれのゲートでどのようにふるまえばいいのか、悩んでいる経営者は少なくないと思います。中には、技術はよくわからないということで、「とりあえず褒める」という経営者もいるようです。

 上流か下流か、ステージによって違うと思います。最上流から厳しく対応すれば、アイデアが出てこなくなります。逆に、下流で緩く運用していると、利益を生まない製品が多く発売されることになるでしょう。自由と規律、その両方が必要です。最適なバランスの見極めは難しいですが、それこそが、長年のイノベーションに対する取り組みから得られる組織力だと思います。