授かり効果の原理

 研究者が実験室で授かり効果の原理を探る時には、それがありふれた消費財に対する価値判断にどのような影響を及ぼすのかを、主に3種類の枠組みから検証している。

 まず「交換」においては、無作為に物を1つ与えられた人は、それを等価値の別の物と交換するのを嫌がる。これを如実に示す実験がある。マグカップを与えられた人のうち、それをスイス製の大きな板チョコ(等価)と交換した人の割合はわずか11%だった。また、板チョコを与えられた人がマグカップと交換した割合も10%にすぎなかった。

 次に「価値評価」においては、無作為に物を与えられた人(売り手)がそれを手放す際に要求する最低金額は、通常、与えられていない人(買い手)がそれを得るために払ってよいと考える金額の2倍になる。このズレは、対象物が特殊で抽象的であるほど大きくなる(下のグラフを参照)。

 最後に、「所有のみ」の場合では、無作為に物を与えられた人は、与えられなかった人に比べ、対象の客観的価値をより高く評価する。

 従来、授かり効果は「損失回避」の副産物であると説明されてきた。買い手は物を所有していない状態なので、それを獲得すれば利益になる。かたや売り手は物を所有している状態なので、それを手放せば損失になる。人は等価の物を得る満足よりも、すでにある物を失う苦痛のほうが大きいため、損失を回避する傾向がある。この視点の違いゆえに、自分が売り手の場合は買い手の場合より物の価値を高く評価する――これが従来の説明であった。

 しかし近年では、この理論に反する研究結果もある。ロンドン・ビジネススクールのリサ・シュー、ハーバード大学のダニエル・ギルバート、バージニア大学のティモシー・ウィルソンと私の共同研究では、所有物を失わなくても、それを単に所有しているだけで授かり効果が生じることが示されている。

 ある実験では、3つのグループを比較した。(1)マグカップを与えられ、それを売る人(所有者・売り手)。(2)マグカップを与えられず、それを買う人(非所有者・買い手)。さらに、(3)マグカップを与えられ、同じマグカップをもう1つ買い足す人(所有者・買い手)である。すると、所有者・買い手の支払い意思額(4.52ドル)は、所有者・売り手の提示額(4.26ドル)と近かった。そしてどちらも、非所有者・買い手の支払い意思額(2.22~2.47ドル)を上回っていたのである。

 もう1つの実験では、被験者の半数にマグカップを与え、残りの半数には与えなかった。そして全員に、その後に参加する予定の別の被験者たちの「仲介人」となってもらい、その「顧客」がいくらでマグカップを購入または売却すべきかを代わりに決めてもらった。するとその金額は、事前にマグカップを与えられたかどうかに左右されることがわかり、顧客の代理として売る(失う)のか買う(得る)のかという立場の違いは、価値評価に関係なかったのだ。

 それらを含む最近の研究結果では、損失回避に代わる別の心理プロセスがいくつか提起されている。

「偏った情報処理」に注目した理論では、物を買う時と売る時では認知フレーム(ものの見方)が異なる。買い手は、お金を手元に保持しておく理由、購入を避けるべき理由について深く考える。それに対して売り手は、お金を受け取るよりも、その物を保持しておくことに意識が向かうのだ。

 チケットが完売するほど人気がある、バスケットボールの試合について考えよう。そのチケットを買う人は、会場に行く手間やそのお金で他に何ができるか(買わない理由)を考える。反対にそのチケットを売る人は、それを得るために支払った金額、そして試合内容の面白さ(売らない理由)に思いをはせる。

 しかしこれらの理論では、所有しているだけでその価値を高く評価するという現象を説明できない。そこで「心理的オーナーシップ」の理論が注目される。物を実際に所有することで、その対象物と所有者の間につながりが生じ、それが授かり効果につながる、という説だ。

 なかでも「自己との関連づけ」に注目した理論によると、人は通常、自分自身を肯定的に評価しており、物を手に入れることで「自分とその対象の好ましいつながり」がいっそう強化される(「これは“私の”マグカップだ」)。その証拠に、自己肯定感の高い人は、それが低い人よりも所有物に対して強い授かり効果を示すという。

 また、「愛着」に注目した理論によれば、自分が手に入れた物はセルフイメージに組み込まれるため(「私はBMWのオーナー」)、それを手放すことは自分の一部を失うかのように辛いという。

 私が先頃『トレンズ・イン・コグニティブ・サイエンス』誌に寄稿した、カーネギーメロン大学のコリーン・ギブリンとの共著論文では、心理的オーナーシップの効果を説明する認知フレームを紹介している。

 人は物を所有すると、その物に対する考え方が変わる。そのほとんどは、自分に関わりのある物事に対して「記憶の偏り」を示す。すなわち、自分と関連する情報については、他の人や場所、事実と関連する情報に比べて、いっそうの意識を注ぎ、よく覚えている傾向があるのだ。

 人は所有する物を自分自身と関連づけるため、所有という行為が認知フレームとなり、その物に対する意識と記憶が強化される。そして、みずからの所有物に対しては、悪い面よりもよい面のほうが多いと見なす。家、自動車、靴などは通常、「嫌いではないから買う」というよりも、「好きでなければ買わない」からだ。所有者は所有物への意識と記憶をより強固に持つため、その価値も非所有者より高く評価するのである。

 また我々の理論は、「望ましくない物」については授かり効果が逆に働くという原理の説明にもなる。たとえば交通違反の罰金、業務上の不愉快な作業、故障した機器などは、所有することが全体的にプラスよりもマイナスにつながる。所有する物への意識と記憶は強まるため、望ましくない物についても、それが他人ではなく自分自身に降りかかる問題である時のほうがいっそう悪く思えるわけだ。