4人が描いた「思い」とは

 みなさんは、いったいどのような絵を描いたのでしょうか。それぞれの「働くうえで大切にしていること」に迫っていくことにしましょう。

 大学院生で本格的な仕事をした経験のない田中さん。アルバイトをするときに大切にしている思いを語り始めました。
「相手が期待してくれている成果を出すこと。そのうえで、あわよくば新しい知見を提供することを大切にしています。ただ、学生ということもあって深く考えていませんでした。なので、本当にそれらが一番大切にしていることなのかどうかも、実は怪しいかもしれません」
 田中さんは、迷いながらこの絵を描いたといいます。
「絵に描いた丸や四角は、障壁です。仕事で成果を上げるためのステップは、この絵に収まりきらないほど多いと考えています。しかも障壁は道よりもはるかに大きな幅を占める。だから、その中で進むには、自分の適切な判断や誰かの力が必要になると思いながらこの絵を描きました」
 田中さんは、自らの描いた絵に「たくさんの道」というタイトルをつけました。

 中原さんが大切にしているのは「自由」だといいます。ただ、そこには「仕事をするうえで」という但し書きは入っていません。
「もともと、仕事で大事にしているものという感覚を持っていないんです。仕事は、人生のうちのひとつの要素にすぎません。ですから、仕事を含めた人生を送るうえで大切なものということで、自由をテーマに描きました」
 中原さんは、まずすべての色で画用紙に描いてみることから始めました。
「仕事に対する考え方と同じです。とりあえずやってみよう。そんな姿勢です。色をぬっているときに、特定の誰というわけではありませんが、さまざまな人の顔が浮かんできました。それが、いろいろな色として表れたのだと思います」
 自由を大切にするという思いを持った中原さんがこの絵につけたタイトルは「あるがまま」という言葉でした。

 仕事と仕事の「合い間」にいる茜さんは、辞めたベンチャー時代を思い出しながら描いたと話します。
「働いている人のやりたいこと、エネルギー、得意とすることを生かして、もっとも高い成果を出す。それを心がけて仕事をしてきました。いろいろな個性の人がいて、誰もがエネルギーを持っていて、それがうまく合わさっていく感じ。そんなことを表現したいと思って描きました。タイトルは『チーム』です」
 とはいえ、茜さんの絵には「合わさっていくような」「混じっていくような」感じが表現されていないところもあります。
「それはそれでよし。そういう人がいてもオーケー。そういうことです。これまで、個性的な人と仕事をする機会が多かったので、自分の思う方向に引っ張ろうとしても引っ張りきれないこともありました。自由に輝いてもらって、そのうえで何かを一緒にやる。そんなイメージが伝わればいいと思っています」
 描いてみて楽しかったかという問いに対し、茜さんが語ります。
「自分では『ゴールに向かって進む!』ということを大事にしていると思っていましたが、ワークシートを記入するとき最初に浮かんだイメージが『パッション』でした。私ってそんなことを思っていたんだ。そんな気づきがあって面白かったですね」

 実は、瀧本さんだけはワークショップのルールを犯して絵を描いています。
「描く前に考えたのは、パステルで色をつけて指でこするという手法から離れることでした。指でこすると形がどうしても崩れます。必然的に細かい図や線を描くことは難しくなり、描くものの「領域」が大きくなってしまう。すると、一緒に描いている人たちの絵と似てしまうと考えたのです」
 瀧本さん、確信犯です。
「ルール違反になることはわかっていましたが、絶対に指でこすることはやめようと決めていました。そこで、描く手法に合っていない絵を描こうと思ったんです」
 瀧本さんは、仕事をするときに「ネットワークの質」「その広がり」を大切にしているといいます。その思いを絵にすることと、ワークショップの手法を離れることを考え合わせた結果、このような絵にたどり着いたというわけです。
「違う形と色の駒を描き、それらを線でつなぐ。ただ、ネットワークの内部ではさまざまなことが起こる。外から見える駒の境界と中身が違うこともあるだろうし、ネットワークの一部が崩壊していることもある。それでも全体としてはバランスがとれている。そんなことを表現したいと思って描き始めました」

 しかし、瀧本さんの絵はその後、変化を遂げていきます。そこには、どのような考えがあったのでしょうか。瀧本さんはこの絵に「計画どおりの偶然」というタイトルをつけました。そこには、どのような意味があるのでしょうか。
 その真意は、瀧本さんのインタビューを収録したDIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー9月号に書かれています。ぜひご覧ください。

 ワークショップに参加して、瀧本さんはご自身の新たな一面を発見したといいます。
「仕事はともかく、仕事とはまったく関係のない絵を描くという行為でも、人と違うことをしたいと考える。自分にはそんなところもあったんだなと思いました」
 エプロンを身に着けたこと、パステルをこすらなかったこと。このひと言で、この日の瀧本さんの行動が腑に落ちたような気がします。