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図表 イノベーション・マネジメント・フレームワーク

 日本では、欧州のガイドラインや国内外先進企業の調査分析を基に、2015年にイノベーション・マネジメント・フレームワーク(以下IMF、右図参照)が経済産業省主導で研究開発され、一部製造業では採用・導入が始まっている。

 このIMFは2つのソフトな要素(リーダーシップ、文化醸成)が起点となり、3つのプロセス要素(プロセス、パイプライン/ゲート管理、外部コラボレーション)とそれを支える2つの基本要素(イノベーション戦略、組織/制度)の有機的つながりの、計7つの主要要素で構成される(7つの主要要素は約40のサブ要素で構成される)。

 IMFに則り成果が産まれれば、その“熱”が2つのソフトな要素にフィードバックされ、組織をあげて持続的にイノベーションに取り組むメカニズムとなるという考え方だ。イノベーションへの取り組みを個別施策で散発的に捉えるのではなく、IMFのように経営全体のフレームワークで捉えることが、既存事業とイノベーションの“両利きの経営”を実現する重要な一歩なのである。

経営自体をイノベートしていく必要性

 日本企業のイノベーション・マネジメントへの取り組み水準はどの程度か? デロイト トーマツ コンサルティングがIMFをベースに日本の上場企業を対象に初めて日本で実施した実態調査結果からは、先の3つの先入観からも推察されるように、経営としてのイノベーション・マネジメントへの取り組みがようやくスタートラインに立ったばかりであることが明らかになった。

  • 日本企業の約3/4は、総合スコア平均が標準的な取り組み水準に達しておらず、いまだイノベーション・マネジメントへの取り組み余地は大きい
  • 日本企業は大きく5つの取り組みパターンに分けられるが、そのうち、トップの掛け声が先行しプロセス・組織・制度の整備が伴わない「掛け声先行型」と、取り組み方針が見えにくい「場当たり型」が合わせて7割強を占める

 また、本調査で初めてイノベーション・マネジメントと業績パフォーマンスに正の相関があることも明らかとなった。これは、IMFが日本企業にも有効に適用しうることを示唆するものである。

  • イノベーション・マネジメントの取り組み水準が高い企業ほど、売上高成長率が上場企業平均を大きく超過している
  • 同様にイノベーション・マネジメントの取り組み水準が高い企業は、時価総額の観点でも上場企業平均のパフォーマンスを超過している

 既存事業とイノベーションの“両利き”の実現には、トップマネジメント自身が3つの先入観に囚われず自身の経営アジェンダとして取り組み、自社の経営自体を抜本的に改革していく視点が必須だ。次回以降で、先進企業として外資系企業から3M、日本企業からコニカミノルタを採り上げ、先進企業における経営者としての具体的な取り組みを紹介する。

 なお、この改革を加速させるキー・プレーヤーはもしかすると資本市場・投資家かもしれない。グローバルな潮流として進む、ESG投資に代表される長期投資へのシフトは、2015年のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のPRI(国連が定める投資責任原則)署名により国内資本市場でもいよいよ始まることが期待される。非財務情報の開示はいっそう求められ、経営者と投資家との間の新しいエンゲージメントのあり方が模索される。

 投資家側にも、企業の潜在成長力・イノベーション力を、従来のように産み出された成果とパイプラインだけで測るのではなく、IMFを基点に、経営としての取り組み自体からその中長期的なサステナビリティを同時に測り、経営者との対話・発信により、企業の経営改革を促していく姿勢が求められる。

 経営者と同時に、資本市場・投資家の今後の取り組みにも期待したい。