もう少し事業寄りの領域でもこのようなスキルは存在します。特定の領域で他社の追随を許さない絶対的なサービスを有する企業は、利益率も高くかなりの優良企業となり得ます。そして、そのサービスを開発する人こそが、顧客やその領域を熟知するスペシャリストですが、「その企業でしか提供していない価値」であるがために、他社への転職機会は非常に限られることになります。

 自社特有のスキルを有した貴重な人材は、労働市場での評価が伴わないという皮肉な現象に陥ります。この矛盾に対し、人が労働市場で評価されにくいスキルや知識を積む仕事を避けるようになると、企業は独自の強みを蓄えにくくなります。つまり差別化を生みだしにくくなるのです。

 このジレンマをなくすには、1つは自社のプロセスを透明化することです。長く務めていない人ではないと稟議を通せない非効率さを日頃から取り除くことです。

 2つ目は、自社特有のスキルを身に着けてほしい職種の人に、破格の報酬を提供することです。プロ野球でのバントの技術は、野球以外のスポーツでは役に立たないでしょうし、ましてや企業でもまったく活かされません。しかし、プロ野球チームとして勝利をもたらす戦術の一つとして、バント名人の存在は欠くことができない。こういうプロフェッショナルには破格の報酬が与えられてしかるべきで、企業も同じです。

 そしてもっとも汎用性があるのは、人材の流動性を前提として、企業の強みを個人のスキルに頼るのではなく、複数スキルの組み合わせから生まれる仕組みづくりに特化することです。優れたデザイナーとクリエイターとエンジニアから生まれるプロダクトの価値は、アップルのiPhoneやチームラボの展示物、そして最近ではポケモンGOを見ても明らかです。

 優れたプロダクトを見た際、デザインが素晴らしいのか、技術が素晴らしいのか、あるいはブランディングが素晴らしいのか、一見分かりにくいものほど模倣が困難です。他社から、その強みが分かりにくいことが更なる強みになる。そして、そのような企業には、才能ある人を惹きつける構想力のある人やオーガナイザーも必要になります。(編集長・岩佐文夫)