「できない理由」なら
100でも200でも思いつく

「悪いリノベーターはまず、できない理由を先に並べます。そんな理由は100でも200でも思いつきますが、リーダーはそれを最初から言わせないようにしなければなりません」

 当然、「ネスカフェ アンバサダー」を展開されるうえで市場調査をされたと思いますが、その結果は参考にされませんでしたか。

 当時の市場調査では、ビルに自動販売機があるとか、近くにコンビニがあるから特に困っていないという反応がほとんどでした。それを見て、「これはいける」と確信をもちました。というのも、お客さまはオフィスで手軽な価格でおいしいコーヒーを飲む方法があることに気がついていなかったからです。アンケートの結果に出てこない取り組みだからこそ、価値をもちます。

 まだ十分にモノの欲求が満たされていない新興国に進出すれば、これまでの経験を活かしたイノベーションを起こせるとは言えませんか。

 グローバル化の進展によって、それも難しくなっていると思います。インスタントコーヒーについて見ても、ローカルの会社がつくると当社の3分の1くらいの値段で販売されます。そのため、ナショナルブランドはシェアが伸びず売上が上がらなくなります。途上国に進出したからといって、モノに頼らないイノベーションが必要ない、ということはありません。

 特にシリコンバレー発のイノベーターは、マーケティングに基づいてというよりむしろ、自分たちが欲しいものをつくって成功を収めた印象があります。それでもマーケティングは必要なのでしょうか。

 そこに矛盾はありません。シリコンバレー発の経営者は理論にも造詣が深く、学問としてのマーケティングの勉強もしているとも思いますが、「顧客が気づいていない問題」の解決をより単純化すると、自分が欲しいものをつくるとも言えるからです。

 ウォークマンの開発に携わった大曽根幸三氏の記事を読むと、ウォークマンは市場調査をもとに企画したのではなく、創業者の井深大さんが海外に出張するとき飛行機の中が退屈なので、フライト中でも音楽を聴けるものをつくれと言われたのがきっかけだったそうです(注)。その開発を細々とやっていたところ、目に止まってウォークマンの誕生になった。井深さんというイノベーターは、自分が欲しいものをつくったわけです。

 アントレプレナーが自分で欲しいと思うものは、一般の人も欲しいと思っているけれどもどうせ無理だろうと諦めているもの、あるいは、本当は欲しくてもその事実にすら気づいていないものです。それは結局、「顧客が気づいていない問題」の発見と解決へとつながっています。

 日本ではイノベーションが生まれなくなったと言われています。高岡さんはなぜそうなったと思われますか。

 いまのサラリーマン経営者の99.99%はリノベーターと言っても言い過ぎではないと思います。何十年も前にイノベーターが起こした変革を土台に、リノベーションを繰り返して生き残っている企業がほとんどだからです。

 もちろん、単純にリノベーターがイノベーターよりも劣るということではありません。組織を拡大するためにはリノベーターも必要です。ただ、イノベーションには賞味期限があるため、何十年かに一人は次のイノベーターが求められるというのが私の考えです。

 日本にはイノベーションが絶対的に不足しています。それは日本の会社のカルチャーに、失敗をしたくない・させたくないという文化、できない理由を正当化する文化が染みついているからです。しかし、イノベーションを起こすカルチャーとは、できないことを可能にする姿勢です。悪いリノベーターはまず、できない理由を先に並べます。そんな理由は100でも200でも思いつきますが、リーダーはそれを最初から言わせないようにしなければなりません。

 お客さまの新しい問題を一つ解決すれば、付随していくつかの問題が出てくるのは当然でしょう。すぐにできるようなことであれば、競合他社が先にやっていますよ。「顧客が気づいていない問題」を解決するために、できないことをできるようにすることがイノベーションなのです。

(注)「管理屋の跋扈でソニーからヒットが消えた」日経ビジネスオンラインを参照
 

 後編は、8月5日(金)更新予定。

【ワールド・マーケティング・サミット・ジャパン 2016】

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会場:グランドプリンスホテル新高輪 国際館パミール3F「北辰」(東京都港区高輪3-13-1)
登壇:フィリップ・コトラー(ノースウェスタン大学 ケロッグ経営大学院 教授)、高岡浩三(ネスレ日本代表取締役社長兼CEO)、ロバート・ウォルコット(ケロッグイノベーションネットワーク 共同創立者・常任理事)、エクゼビア・ロペス(キッザニア創設者)、吉田忠裕(YKK代表取締役会長)ほか。
メディアサポーター:DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビューほか
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