事業戦略とIT戦略の融合が必要

――事業戦略とITが融合していないため、想定外のトラブルが起きて慌てるケースも出始めているようですね。

 某大手金融機関がタブレット型の販売支援端末や、シンクライアント型の販売代理店向けシステムを導入し、販売フロントと接続した顧客管理を始めたところ、販売フロントでのアクセスの増加がバック業務を支える基幹システムの障害を誘発し、それがブーメランのように顧客接点にも影響して販売業務を継続できなくなるというトラブルが起きました。今後は、このように特定の事業や業務を支えるために作られた既存のITシステムがもともと想定していないようなリスクにも注意を払う必要があるでしょう。

 もちろん、大手金融機関の基幹システムとITガバナンス体制は金融庁の査察や第三者評価をクリアしており、品質の高さは折り紙つきです。なぜトラブルを招いてしまったかというと、コスト競争力やシステム構築能力に焦点をあてた従来のITパフォーマンス評価のモノサシにとらわれ、販売フロントとバック業務が常時接続されることで、関連する業務や事業の安定性リスクがどのくらい高まるのかという、全体俯瞰でのリスクや持続性といった視点での検証が欠けていたからです。

 ですから、今後は「個々の事業や業務のプライオリティをITとしてどのように実現するか」だけでなく、「将来起こりうる事業成長シナリオとリスクシナリオに対して、ITとしてどのように備えるか」まで踏み込んだIT戦略や企業の設計図(エンタープライズ・アーキテクチャ)を策定しておくことが重要なのです。想定されるシナリオとその時間軸に合わせて、事前に共通システム基盤やIT運営体制を作り込んでおけば、そのシナリオが現実化した際に、俊敏かつ低リスクでの対応が可能になります。また、こうしたIT戦略とエンタープライズ・アーキテクチャは、事業戦略策定のタイミングと同時、もっと踏み込んでいえば事業戦略の一部として策定されるべきです。

SFジャイアンツのCIOが
活躍できたわけ

――CIOといえば、米国メジャー・リーグのプロ野球チーム、サンフランシスコ・ジャイアンツに評価の高い人物がいますね。

 Bill Schlough氏ですね。彼は、ビデオアナリティクス(ビデオ画像解析)や動的なチケット価格設定、無料Wi-Fiサービス、非接触型決済など、最新のテクノロジーによって数々のビジネスイノベーションを実現しています。つまり、テクノロジーイノベーションをクラブの成功の原動力にしているわけです。

 また、このクラブは、CEOがITとCIOの重要性を認識し、CIOに対して企画から評価、インセンティブ付与に至るまで、IT領域以外も含む幅広い権限を与えています。これらは非常に注目すべき点です。

 ここまでお話してきた通り、ITは経営・業務の根幹をなす重要なインフラである一方、新たな事業競争力創造の重要なドライバーでもあります。CIOを活用してテクノロジー・ドリブンな経営を実践できるかどうかは、突き詰めればCEOの考え方、実行力如何にかかっているといってもよいでしょう。

参考リンク
●マルチスピードIT を武器に複合競争時代を勝ち抜く
●テクノロジーイノベーションによるビジネスイノベーションの加速に向けて

(構成/河合起季、撮影/宇佐見利明)