●長期的視野を失わない

 ビン・ラディンの追跡は10年間続き、4人のCIA長官と2人の大統領に監督されてきた。米国はこのミッションのためだけに、数十億ドルの軍事および諜報のリソースを費やした。2009年に着任した我々は、それまでのすべての努力を受け継ぐことができた。だが、過去に多くの試みがなされたからといって、さらなる努力をする必要性が免除されたわけではない。

 非常に多くのマネジャーを悩ますある問題に、我々も対処する必要があった。それは目先の案件に支配されること、つまり「至急」が「重要」を打ち負かしてしまう現象だ。たとえ危機や混乱の最中でもチームに優先事項を見失わせないよう、マネジャーは長期的視野を保つ必要がある。ビン・ラディンの捜索は、「重要だが、常に至急というわけではない」任務の典型であった。

 だが、長期的視野を持つためには、重要な任務をTo Doリストの最上位に据えておくだけでは事足りない。次のような点を定期的に精査する必要がある。課題はどう対処されているのか。誰が取り組み、どのリソースが投入されているのか。そして成功を目指す過程での重要なマイルストーンに、どれほど近づいているのかである。

 オバマ大統領は我々の焦点を、ビン・ラディン追跡という未完の任務に幾度となく引き戻し、やがて殺害作戦の決行という難しい最終決定を下した。このことは大きな称賛に値する。人員を召集して、数えきれないほど行き詰まってきたこの難題をなおも追求させるのは、たやすいことではない。我々が持っていたのは信念のみであった。このテロリストはきっと、どこかで何らかの過ちを犯すはずだ。その機会を捕らえる準備はしておく必要がある、と。

 驚いたことに、CIAの内外にはビン・ラディン捜索の打ち切りを考える人々がいた。ビン・ラディンはあまりに重視され労力が注がれている。ビン・ラディンの力を弱めたいのなら、彼のことで騒ぎ立てるのをやめるべきだ――これが彼らの言い分である。

 我々はそう考えたことは1度もなかった。ミッションを続けたのは、成功を見込んでいたからではない。「米国を攻撃して逃げおおせる者はいない」と、世界に知らしめる必要性を強く意識していたからだ。もし我々が失敗していても、少なくとも標的に近づくことはできたため、次期のCIA首脳陣が仕事を完遂できただろう。

 すべての組織は、次の問いに答える必要がある。「他の何よりも追い求めねばならない使命は何か。それをやめたら、みずからのアイデンティティが失われるような使命は何か」である。

 我々にとっては、それがビン・ラディン追跡であった。9.11以降、CIAは多くの優秀な局員を一連の戦いで失った。その中には、2009年12月にアフガニスタン東部の遠隔基地で自爆テロに巻き込まれた7人も含まれる。ミッションを断念することは、犠牲者の名誉を傷つけ、彼らが命を捧げた国の名を汚すことであった。


HBR.ORG原文:The Former Head of the CIA on Managing the Hunt for Bin Laden May 02, 2016

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レオン・E・パネッタ(Leon E. Panetta)
米国の下院議員、予算委員長、大統領首席補佐官、CIA長官、第23代国防長官を務めた。著書にWorthy Fights: A Memoir of Leadership in War and Peaceがある。現在は、カリフォルニア州モントレーにあるパネッタ公共政策研究所の所長。コンサルティング会社ビーコン・グローバル・ストラテジーズのシニア・カウンセラーも務める。

ジェレミー・バッシュ(Jeremy Bash)
CIAおよび国防総省でレオン・パネッタの首席補佐官を務めた。現在は、ビーコン・グローバル・ストラテジーズのマネージングディレクター。