ほとんどの大企業は生き物に似ている。個々に縄張りがあり、特定の機能でインプットとアウトプットを行い、エンジンは完全に内部にある。あたかも頭と目、口、胃袋を持つ巨大な動物のようだ。この例えは直感的に理解しやすい。

 私たちは「組織とは生き物のようなもの」と教わってきた。その考え方は、20世紀には便利であり有効であった。ただ、それは現在よりも変化が緩やかだった頃の話だ。

 ニューヨーク・タイムズはまさに、生き物のような企業の好例だ。従業員は社外で昼食や会議をすることはめったにない。彼らの人的ネットワークは自社ビルの中にある。諸々のアクション、重要な情報の交換、闘い、勝利――そのすべては社内で行われる。中核事業チーム、ニュースルーム、ベータチーム(アプリ開発などを担当)のいずれかが解決策を見出すと、それは会社全体の解決策と見なされる。

 当然ながら、同社ではインプットとアウトプットが行われるが、その場所は個々に独立している。生き物の口や鼻や耳のように。戦略的関係を推進・管理する戦略チームが、自社を生かし続けるためのリソースを取り入れ、他の部門に行き渡らせる。これは私たちの両親が現役だった頃の企業モデルであり、昔はそれで十分うまくいっていた。

 しかし、いまの世の中でこれは通用しない。自社を単体の生き物として考える企業は、現代を生き延びるには適応が遅すぎるのだ。周囲の環境は、変化と再編を遂げ進化していく。だが生き物としての企業は、変わらぬ古いDNAのまま、従来と同じ問題を抱え、同じ(奏功しない)やり方で解決しようとする。

 エコシステムはこれと対照的だ。境界を持たず、たえず成長し、新しいものを取り入れ、適応、反応、変化を続けることができる。新たな要素を取り入れる時、それを「体内に飲みこむ」のではなく、ネットワークの周縁部に組み入れる。それによって、エコシステム全体に新しい価値が創出される。

 こういう戦略を追求する組織の考え方を、私は「エコシステム思考」と呼んでいる。どのスタートアップもこれを備えているが、大企業のほとんどは持っていない。企業とは境界に囲まれ自己完結する存在ではなく、より大きなエコシステムの一部である――それを理解するのがエコシステム思考だ。重要な問題への答えは社内ではなく社外にあること、自社の発展のためにはそれらを見つけて関係を築く必要があることが、暗黙のうちに理解されている。

 ベンチャーキャピタルのアンドリーセン・ホロウィッツは、エコシステム思考によって大きな成果を上げている組織の好例だ。投資先企業を注視するごく少数の者を除き、ほとんどの従業員は会社の枠を越えて外の出来事に目を向けている。

 典型的な「生き物思考」の組織では、マーケターは自社を売り込み、ディレクターは自社の取引を査定し、幹部人材の獲得を担うチームはみずから採用活動などしない。アンドリーセン・ホロウィッツはそうではなく、関係を生じさせる。マネージングディレクターは、自社の投資先への門戸を他社にも開放し、毎月何百もの企業がその門をくぐっている。内と外をつなぐ浸透膜のように、同社そのものが連続的にインプットとアウトプットを生じさせる機能として成り立っているのだ。

 同社のパートナーであるジェフ・スタンプは、「ネットワークに生じるどんなに些細なことでも、我々は知っておきたい」と私に語ったことがある。

 同社はまた、内外をつなぐ活動がもたらす価値を測定し、真の投資対効果を把握しようとしている。その効率性や生産性、ネットワークの質、インプットとアウトプットの質を測定する。単にネットワークを構築するだけでなく、それが機能しているかをたえず自問しているのだ。

 こうした組織のあり方、その継続的なネットワーク活動がもたらすものについて考えてみよう。そこから生み出される新しいアイデア、パートナー関係、コラボレーションの数は、どれほど膨大なことだろう。

 ひるがえって大企業を見てみよう。たとえ起業家精神を持つ従業員と成長志向の経営陣がいても、ニューヨーク・タイムズのような組織が成果を上げられない理由が見えてくる。こうした企業は、まるで沼地にはまったクマを思わせる。周囲で新種の生き物たちが跳ね回り、交流し、進化と変容を遂げていくなか、毛皮に覆われたクマはかぎ爪の手でそれらを叩こうとあがいているのだ。

 起業家精神に富む人材と、ベンチャーキャピタルの考え方を取り入れた幹部らを揃えたのに、先が見えてこない。外界に遅れないペースでのイノベーションと成長が始まらない。このような企業は、どうすればよいのだろうか。

 ドアを開け放ち、光が差し込むようにするのだ。そして社外に出て、交流を広げよう。戦略チームやCEOだけでなく、全従業員がそうすべきである。新しい価値は社内ではなく、外のネットワークの周縁部に存在するのだから。

 このことを受け入れれば、成長するはずだ。


HBR.ORG原文:What I Learned from Trying to Innovate at the New York Times April 07, 2016

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ジョン・ジェラーチ(John Geraci)
アントレプレナーシップの専門家。ニューヨーク・タイムズのデジタル商品部門の元ディレクター。起業・ベンチャーの分野で10年以上の豊富な経験がある。