●コダックは他にどんな戦略を取りえたのか

 コダックのリーダー陣は、より幅広いエコシステムの力学を理解していたならば、おそらくは異なる選択を下していただろう。

 エコシステムの視点を持つための第1のステップは、次の2つの状況を区別することである。まず、自社の価値創造が「みずからの遂行力」によって成される状況(製品ベースの世界)。そして、自社の価値創造が「他の企業、他の技術」の動向に大きく左右される状況(エコシステムの世界)だ。

 エコシステムの世界で戦っている企業は、「共同イノベーター」としての他社の進歩にも、自社のイノベーション努力と同程度の関心を向けなければならない。他社の発展の遅れが、自社の成長を妨げている場合がある。そして他社の急速な発展が、他のプレーヤーたちの成長に火をつける時もある。こうした状況に気づく必要があるのだ。

 私は複数の企業との協働を通して、「広角レンズ」というプロセスを見出した(詳細は『ワイドレンズ』を参照)。これを活用すれば、上述のような依存関係を非常に効率よく明らかにできる。そしてエコシステムの力学がいっそう明瞭になり、代替の戦略をめぐる新たな議論も生まれる。

 もしコダックが、エコシステムレベルの破壊的変化の可能性に気づいていたら、以下のように他の選択肢がいくつもありえただろう。

●集中特化

 デジタルで競争するが、部品の性能向上による恩恵を継続できる分野に集中する。消費者はカメラ内蔵の携帯電話をどこでも携えるようになり、撮影・保存するデジタル画像の数は飛躍的に増えることになる。このことをコダックが予期していたならば、画像処理と画像認識の分野でケイパビリティを構築できただろう。

●拡張

 どの周辺事業を中核事業に移行できるか考える。コダックは、クラウドベースの写真管理に早い段階から参入していた。これは、オンラインの写真管理サービスOfoto(オフォト)を2001年に買収したことからも明らかである。しかし当時目指していたのは、写真の共有を促して印刷を増やすことであった。ソーシャルネットワーキングの潮流に乗るためではなかったのだ。

●多角化

 自社のポジションが脆弱であることを認識して、特定分野への過度の集中と依存を避ける。コダックの経営陣はプリンター事業に邁進するなかで、他の魅力的な分野をいくつも売却してしまった。その最たる例は、医療用画像処理の事業だ。エコシステムレベルのリスクをもっとよく理解していれば、1つの事業にすべてを賭けるべきか再考したかもしれない。

●防御

 有望な方策がない場合は、それを見出せるまで自社のリソースを節約し確保しておく。最悪の場合には、守りを固められるニッチ市場への「大胆な退却」を検討してもよい。コダックはデジタルプリンター事業で巨額を浪費し、最終的には自社の特許基盤を守るための資本も十分になかった。

 上記のような代替案は、コダック社内でも検討・議論された。だが、エコシステムの力学に対する理解が欠けたまま、それらの重要性は見過ごされたはずだ。そして、間もなく姿を消すデジタル写真印刷の市場に会社の命運を賭けるという、破滅的な決定に道を譲った。

 今日の有力企業がコダックから学べる教訓は何か。

 破壊的変化に対する注意の欠如だけがリスクではない。変化の間違った部分を推し進めてしまう、というリスクもあるのだ。IoTが進化するにつれ、このようなエコシステムレベルの破壊は今後ますます一般的になる、と私は予想している。つまり、直接的なライバルとの競争よりも、さまざまな要素の変化によって生じる失敗だ。金融、製造品、農場、薬局――あらゆる分野で、センサーとネット接続性と分散知能によるデジタル革命は、エコシステムにおける競争力と戦略を大きく揺さぶるだろう。

 コダックの失敗から正しい教訓を得て、エコシステムを見据える広角レンズをもって競争戦略を考える企業は、破壊の新時代によりうまく対応できるはずだ。そうした企業は、コダックの運命をたどる危険を冒すことはない。

 

HBR.ORG原文:Many Companies Still Don’t Know How to Compete in the Digital Age March 28, 2016

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ロン・アドナー(Ron Adner)
ダートマス大学タック・スクール・オブ・ビジネス教授。戦略とアントレプレナーシップを担当。著書に、エコシステム戦略への新しいアプローチを紹介したThe Wide lens: What Successful Innovators See that Others Miss(邦訳『ワイルドレンズ イノベーションを成功に導くエコシステム戦略』東洋経済新報社、2013年)がある。