経済的不安は、なぜ痛みをもたらすのだろうか? 原因はおそらく、人間の心理に根差している。経済的不安に直面した人は、コントロールを失ったように感じることが多い。コントロール感(物事や自分自身をコントロールできているという感覚)は、幸福や健康の最も基本的な要素の1つである。それを失うと、人間の身体はやや混乱を来し、刺激に対する反応が変わる。つまり回復力が弱まり、痛みへの耐性が下がるのだ。

 経済的安心感が主観的反応に与えるさまざまな影響を比較したのは、筆者らが最初ではない。貧しい人々は、自分の経済状況について考えるように言われると認知力が低下するが、裕福な人々には変化がない。人はお金を握りしめたり、スクリーンセーバーに現金を表示させたりするだけで、孤児に寄付する金額が減り、自分自身の目標にいっそう集中するようになる。

 しかし筆者らの研究対象は、客観的な意味での経済的不安にとどまらない。研究結果が示すところによれば、経済的不安による痛みは、所得および社会経済的ステータスの高低に関わらず起こりうる反応だ。企業の幹部でもブルーカラー労働者でも、厳しい就職活動をひかえた学部生であっても、経済状況に対する自分なりの認識が、痛みの程度を左右するのだ。

 では、ここから何が言えるだろうか。いくつか示唆してみたい。

 第1に、経済的不安と鎮痛剤の使用増という、2つの大きな社会問題の間には関連があることを、私たちは認めなければならない。政府諸機関は、これらの問題に別個にではなく協調して取り組む必要がある。また、その協働が目指すべき総合的な目標は、薬物依存と所得格差の是正だけではない。個々人にコントロール感を取り戻すことで、社会全体の幸福を向上させねばならない。これらの問題を根底で関連づけている心理プロセスに焦点を当てれば、2つの問題を同時に解決できるかもしれないのだ。

 民間セクターについても同じことが言える。従業員が身体的痛みを感じているとき、その経済的コストの半分以上を雇用主が負担している。たとえば鎮静剤の濫用に限っても、雇用主が2015年に負担した金額は270億ドルにのぼる。経済的不安と鎮痛剤の過剰使用の間に因果関係があることを企業が理解すれば、コスト削減のまたとないチャンスが生まれるだろう。職場の心理的安全を高め、従業員自身に職務上の諸要素をコントロールさせるよう権限を増やせば、従業員のエンゲージメントと生産性を高められる。同時に、身体的痛みとその付随コストも減らせるのだ。

 これらの知見は、医療における改善の余地も示唆している。人が感じる痛みの程度には、さまざまな要因が関わっているという認識を持つことが重要だ。個々人の病歴だけを見るのではなく、その人が経済状況を主観的にどう感じているか、どの程度コントロール感を持てているかを測ることにも意味がある。

 また医療提供者は、経済的な苦境にある人への鎮痛剤の処方を減らす前に、よく吟味すべきだろう。その痛みは、薬代を心配する必要のない患者よりもずっと激しいかもしれないのだから。


HBR.ORG原文:The Link Between Income Inequality and Physical Pain March 21, 2016

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アイリーン・Y・チョウ(Eileen Y. Chou)
バージニア大学フランク・バッテン・スクールの助教。公共政策を担当。

ビドハン・L・パーマー(Bidhan L. Parmar)
バージニア大学ダーデン・スクール・オブ・ビジネスの助教。経営管理論を担当。

アダム・D・ガリンスキー(Adam D. Galinsky)
コロンビア大学ビジネススクールのビクラム・S・パンディット記念講座教授。共著にFriend and Foeがある。