人への影響

 これまで述べてきた「プロセス」「説得力」「可能性」によって、特定の状況下での人々の行動に影響を与えることができる。しかし、職場に限らず社外も含むさまざまな状況で、長期にわたって人の行動を変えるには、その「人」自身に影響を及ぼすことが不可欠だ。

 これは、行動変革を促す要素のなかで最も実現が難しい。たとえ個人の態度や意図を変えることができたとしても、行動を変える試みは失敗に終わることが多い。人はしばしば意図と異なる行動を取るからだ。したがって、動機づけだけでは不十分であり、特定の手段やツールが必要だ。確立された手段をいくつか利用して働きかければ、前向きな意図を貫く後押しができる。

●目標

 目標の設定と進捗の追跡は、長期にわたって行動を改善するうえで不可欠である。その目標は個人的で、やる気を喚起し、測定可能でなければならない。また、目標達成を助ける他の手段も併用する必要がある。

●事前の対策

 意志力や自制心は、心的資源の消耗を伴う。疲れや空腹やストレスを感じている時、あるいは何かに集中している時には、自制心を要する行動は難しい。そこで、計画と対処を事前に講じておけば(例:健康的な食事を前もって計画しておく)、理性的な意思決定ができ、衝動に任せた選択をして後悔を招く事態を回避できる。

●習慣

 私たちは日々の行動のほとんどを無意識に行っている。したがって、健康的な行動を長続きさせる理想的な方法は、それを習慣化してしまうことだ。グーグルの社員が健康的な食習慣を身につけられるよう、我々は次の実験を行った。

 社内でボランティアを募集し、食事と体についての目標を立ててもらい、彼らを無作為に3つのグループに振り分けた。

 1つ目のグループには、血糖値と体重増加の相関にまつわる「情報」を与えた。2つ目のグループには、「情報」とそれを活用するための「ツール」を与えた。血糖値モニタ装置とデータ記入シートを渡し、血糖値、体重、BMI、身体組成の測り方を教えた。3つ目のグループは対照群で、情報もツールも与えなかった。

 毎週の調査の結果、情報とツールの両方を与えられたグループが、最も目標に近づいていった。3ヵ月後、情報を与えられたグループと対照群の結果に違いは認められなかった。しかしツールを与えられたグループでは、身体的な目標に近づいた人の数は他のグループよりも10%多く、食事の目標に近づいた人の数は27%多かった。そして実験が終わる頃、ツールのグループでは健康的な選択の習慣化がより顕著に見られたのだ。

 つまり、情報だけでは行動の変化を促すには不十分であった。ツールと測定によって、健康な選択がより容易になったのである。

 社員が会社や自宅でより健康的な食の選択ができるよう、支援する――グーグルのフードチームとエール大学経営大学院の顧客インサイトセンターが、その包括的なプログラムの策定に向けて実験できたのは、4Pのアプローチのおかげである。

 企業の人事部や経営陣は、健康問題にかかるコストを減らしつつ社員の健康とパフォーマンスを高めるために、行動経済学をどう活用すべきだろうか。我々の現在までの成果は、この課題に対する有益な示唆となる。

(原注:本調査研究に多大な貢献を果たしてくれた、グーグルのキム・ハスキーとリディア・アッシュに感謝したい。キムはフードサービスのディレクターで、リディアはシニア人事ビジネスパートナーである。)


HBR.ORG原文:How Google Optimized Healthy Office Snacks March 03, 2016

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ゾーイ・チャンス(Zoe Chance)
エール大学スクール・オブ・マネジメントの助教。マーケティング論を担当。

ラビ・ダール(Ravi Dhar)
エール大学スクール・オブ・マネジメントのジョージ・ロジャース・クラーク記念マネジメント講座教授。エール顧客インサイトセンターのディレクター。

ミシェル・ハツィス(Michelle Hatzis)
グーグルのグローバル・フード・ヘルス・ウェルネス・プログラムのマネジャー。

マイケル・バッカー(Michiel Bakker)
グーグルのフードチームのディレクター。