プロセス

 行動変革について人々が理解を深めるうえで、行動経済学のある知見が大きく寄与している。それは「選択設計(choice architecture)」、つまり選択肢の提示における、小さなナッジの活用だ。選択の環境を少しだけ変えることで、より健康的な選択肢に注意を向けさせたり、選択を容易にしたりできる。

●順番

 並べ方は重要である。一連の視覚物(ビュッフェ料理の並びやメニューなど)の中で最も目につきやすいのは、選択肢が2つなら1つ目、3つなら真ん中のものだ。聴覚情報(本日のスペシャルメニューのアナウンスなど)で最も耳に残りやすいのは、最初と最後の選択肢である。

●初期設定

 最初に設定されている(デフォルトの)ものほど、選ばれる可能性が高くなる。人は現状維持を好む傾向があること、そして意思決定が不要なため気楽であることが理由だ。より良い選択肢を初期設定にすることで、選ばせやすくできる。

●入手しやすさ

 人は目につきやすいもの、手の届きやすいものを食べる傾向がある。

 入手しやすさが少し違うだけで、軽食の食べ方に大きな影響が及ぶ。グーグルの社員が大勢集まる広い休憩室「マイクロキッチン」(無料の飲み物とスナックが提供されている)に、我々は覆面の調査員を送り込んだ。飲み物とスナックの両方を手に取った社員の数を記録するためだ。

 ドリンクコーナーは2つあり、1つはスナックコーナーから約2メートルの位置、もう1つは5メートルほどの位置にある。どちらにも、冷たい飲み物が入った冷蔵庫と温かい飲み物が揃ったカウンターが設けられている。スナックコーナーには、ナッツ、クラッカー、キャンディ、ドライフルーツ、ポテトチップス、クッキーが置かれている。

 1000人以上の社員を観察したところ、スナックコーナーに近いドリンクコーナーを利用した人は、飲み物とスナックの両方を取る確率が50%高かった。その分、スナックのカロリー摂取が増えるわけだが、毎日コーヒー1杯を飲む男性の場合で計算すると、その「代償」は1年間で約450グラムもの脂肪となる。

説得力

 これは、「メッセージの伝え方」をうまく調整することによって、健康的な選択肢をより魅力的に感じさせ、不健康な選択肢の魅力を減らすことを指す。たとえば表現方法、タイミング、社会的規範の活用などがある。これらは相手を最も侵害せず、コストもかけずにより良い選択へと導く方法だ。

 ポイントは、適切なメッセージを適切な方法で、適切な時(相手が最も受容的な姿勢を示す時)に伝えることだ。説得力を高めるうえで大切な要素は以下の3つである。

●鮮烈さ

 鮮烈なメッセージやイメージは、相手の直感・感情に響いて注意を喚起する。生々しく伝えることで喜びや嫌悪感などを呼び起こせば、最良の選択を直感的に下してもらいやすくなる。

●比較

 適切なメッセージによって、ある行動の代償を明らかにしたり、行動の影響を数値化したりできる。たとえば「ソーダ1缶分のカロリーを消費するには、2時間歩かねばならない」。損失や痛みは、利益や喜びよりも大きなモチベーションになる場合がある。

●真実の瞬間

 真実の瞬間(moment of truth)とは、何らかの目的の下に発せられた説得のメッセージを、受け手が最も支持する時間と場所である。

 人気のない野菜を大々的に宣伝しても、人々はそれを食べたがらないとする研究がある。だが、我々は正反対の結果を得た。多くのグーグル社員で賑わう無料の社内食堂で、我々は人気のない野菜(ビーツ、パースニップ〈セリ科の根菜〉、スクオッシュ(カボチャ類)、芽キャベツ、カリフラワーなど)を主な材料とした料理の横に、カラフルな写真と簡単な豆知識を添えたディスプレイを設置し、「今日の野菜!」として推薦した。

 キャンペーンのポスターを料理のすぐ横、つまり「真実の瞬間」に提示したわけだ。すると、そうでない方法(野菜が健康に良いという記事をメール送信するなど)と比べ、お勧めの野菜料理を選ぶ社員の数は74%増えた。そして、各自が野菜を摂取する量も平均で64%増えたのである。

可能性

 この可能性とは、提示する選択肢群の構成を指す。これは変化を促す最も明白な手段だが、しばしば見過ごされている。可能性を調整する時には、「選択の自由」を残すよう気をつけねばならない。押しつけがましさに対するネガティブな反応が、選択肢のメリットを見失わせるおそれがあるからだ。したがって、魅力的だが不健康な選択肢を完全に排除せず、減らしたり入手しにくくしたりするとよい。たとえば、以下の要素を変えられる。

●品揃え

 種類の豊富さは、摂食を強く喚起する。人は目の前にあるものを口にする傾向があるので、目の前の選択肢が多ければ摂食も増えるものだ。行動は現実ではなく認識に影響を受ける。

 たとえば、人は1色のM&Mが入った容器よりも、さまざまな色のM&Mが入った容器に手を伸ばし食べようとする。すべて同じフレーバーであるにもかかわらず、である。完全に選択肢をなくさずに摂食を減らすには、徐々に種類を変えていくという方法がある。すなわち、1週間毎日5種類のデザートを提供するのではなく、日に1種類ずつ違うデザートを出せばよい。

●組み合わせ

 ある健康的な選択肢を、別の選択肢と巧みに組み合わせることで、体によい行動を促すという方法もある。組み合わせ(バンドル)の対象は、同等に健康的なものでも、多少劣るものでも構わない。

●量

 人は「一人前」を、その量や定義がどうであれ、適切な摂食量だと考えがちだ。一人前の量を調整すれば、摂食量に影響を及ぼせる。

 グーグルの別のマイクロキッチンで、我々は最も人気のあるスナックであるM&Mを使ってフィールド実験を行った。

 社員は通常、ばらの状態で容器にたくさん入っているM&Mを、110グラムほど入るカップですくい取るのだが、ほとんどの人はカップを満杯にしていた。我々は基準となる摂取量を測定した後、ばらのM&Mを小袋に入ったものに交換した。このような単純な方法で、平均摂取量は58%減り、摂取カロリーが308から130になったのである。