組み合わせてデザインする
「アーキテクチュアルナレッジ」

日置 中小企業感覚を持ってマネジメントできていると、社内の横のつながりが保たれて、ナレッジの使い方もうまくなるんじゃないかと思います。

入山 ナレッジの分類の仕方は色々ありますが、ハーバード大学のレベッカ・ヘンダーソンやティム・クラークなどの研究者が「コンポネント・ナレッジ」と「アーキテクチュアル・ナレッジ」という考え方を示しています。コンポネント・ナレッジは企業に蓄積された部分的な知であり、日本企業はこれをたくさん持っています。アーキテクチュアル・ナレッジは、それらの知を組み合わせてデザインする知であり、イノベーションに大事なのはこちらです。

日置 ビジネスをデザインするというのは最近のキーワードにもなっていますね。

入山 このアーキテクチュアル・ナレッジで肝心なのは、製品やサービスの構造と組織の構造が連動して硬直していってしまうということなんです。例えばエアコンという製品を作ろうとすると、最初は試行錯誤して色々なパーツ、つまりコンポネント・ナレッジを組み合わせようとするけれど、製品の最適な形ができて、パーツの配置も決まってしまうと、パーツ同士が連携する部署とは交流が続くけれど、パーツが直接つながらない部署とは交流がなくなってしまう。そうして製品の成熟とともに組織が固定化されていってしまうのです。その現象をドミナントデザインと言います。

日置 日本企業が技術で勝ってビジネスで負けるというのは言い古されたことですが、アーキテクチュアル・ナレッジの弱さに起因しているということでしょうか。

入山 かつては日本がアーキテクチュアル・ナレッジでビジネスに勝ったこともありました。ソニーがトランジスタラジオを開発してアメリカ市場を席巻したときには、アメリカではRCAという企業がラジオのトップで、トランジスタラジオに必要な技術を全部持っていて、ソニーにライセンス供与していたくらいでした。ところが、RCAは従来型のラジオでドミナントデザインが出来上がってしまっていて、新しいラジオをうまくデザインできずにソニーに負けてしまいました。製品問題ではなく組織問題でビジネスに負けてしまったわけです。

日置 日本企業はなぜiPodを生み出せなかったかという話は、まさにトランジスタラジオと同じことが起きてしまっていたような気がします。

入山 日本はコンポネント・ナレッジは強いのですから、それを組み合わせて、これまで交流のなかった部署もつないで、組織のドミナントデザインも一緒に変えていけると、まだまだ新しいものを生んでいける余地はあると考えています。