「出す」と「入れる」
表裏一体で新陳代謝

日置 では、企業が資金などの経営資源を傾斜配分すべき新しい方向はどのように見出せばよいのか。新陳代謝というと、古いものを捨てる話を先にする風潮がありますが、新しい行き先が見えていなければ、捨てるのが難しいのは当然です。

入山 新陳代謝はイノベーションの源泉です。以前にも紹介した、新しい事業を創出する「知の探索」と、既存の事業を成長させる「知の深化」の両利きの経営を提唱したジェームズ・マーチの論文は、組織は「知の深化」に偏りがちになるという論点が有名なのですが、実はこの論点が書かれているのは、論文の冒頭3段落分くらいだけなのです。本論は、その「知の深化」に偏る組織が、どうしたら「知の探索」をできるかを示したところにあります。

日置 冒頭だけで世界にインパクトを与えているとは、偉大な論文ですね。どのような「知の探索」に適した組織の条件が提示されたのでしょうか。

入山 たとえば、組織と人材が学び合うという組織学習のシミュレーション・モデルを使った分析からわかったことは、「人材が組織から学ぶスピードが遅い組織のほうが、知の探索が進みやすい」ということです。

日置 組織に染まりにくい人材が多いほうがいいということですね。

入山 そうです。組織に染まって同じような考えの人ばかりになってしまうと、イノベーションは生まれにくいんですね。もう1つ、「人が入れ替わったほうがいい」という条件も出されています。結局、組織に染まっていない人が「知の探索」には必要だということです。日本企業のように終身雇用で組織に染まりきった人が多いと、既存事業は成長させられても、新しいものを生むのは難しくなっているということです。

日置 欧米企業は容赦なく人を辞めさせるというステレオタイプな印象を持たれがちですが、その一方で、採用もたくさんしています。だから、組織に染まらない人が常にいる状態になって、新しい知を探索しやすい環境が整っているのです。新しいものを生み出すことができるから古いものを捨てられる、組織に染まっていない人材を採用できるから従来の考え方に染まった人材を外に出すことができる、それらが表裏一体で新陳代謝ができるわけです。

入山 「出す」と「入れる」の両側面をセットで動かしていかなければならないということですね。