1980年代のアメリカを
非効率から救ったもの

入山 でも、この問題は日本特有のものではなくて、実はアメリカも以前は終身雇用で、色々な事業を抱え込んでいた時代があります。

日置 1960年代~70年代のアメリカでは、経営者が闇雲に多角化し、産業全体としても企業の持つ事業としても非効率に陥り、さらには、「新興国」日本に製造業で追い立てられていて……それを変えた突破口の1つは、投資家が経営に介入したことではないかと考えています。

入山 そういう意味では、現在、日本でもようやくプライベート・エクイティにビジネスの感度が高い人材が集まり出しているので、新陳代謝の突破口は彼らにあるのかもしれませんね。

日置 ファンドというと、資本主義が未成熟の日本では偏った捉えられ方をされてしまっています。少し前には「ハゲタカ」と言われて、残酷に事業や雇用を整理して、企業をバラバラに解体し、自身だけが利益を上げるという悪いイメージが残っていたり。もちろんそのようなファンドがないわけではないですが、最近はそういう独善的なスタイルのみならず、ちょっと大げさですが、社会や産業の全体をリストラクチャリングし、再生する潜在力を持つような進化を見せているのではないでしょうか。

入山 そうですね。ハーバード大学のジョシュ・ラーナー教授の研究では、プライベート・エクイティが買って再生させた事業のほうが雇用は増えているという結果も出ています。彼らはそれこそ「ハッピーセパレーション」して早めに買って再生させるので、雇用の維持や増加につなげられるのです。

日置 特に日本では、リストラクチャリングが解雇と同義に扱われてしまいがちですが、本来のリストラクチャリングは事業の構造を組み替えるという意味です。ファンドなど市場の手も借りて構造を変えていく発想で、過去の清算ではなく未来への転換という意味でのリストラクチャリングが必要な時期だと感じます。そういう意味では、昔のアメリカの状況を時間差で日本が迎えていると捉えています。

入山 実は、戦前、特に明治時代の日本では、金融市場が十分に発達していなかったこともあって、財閥がその市場の働きを担っていた側面があります。明治期には、財閥が持株会社の位置づけで、そこからピラミッドのようなきれいな階層構造で事業を行う会社が広がっていました。その頃の財閥を研究しているブリティッシュコロンビア大学の中村政男教授によると、財閥の中で新しいことに取り組もうとすると、すでに儲かっている事業の利益を新しい事業に投資するという資金の動かし方が財閥内でできていたのです。

日置 財閥のような存在がないいまの時代に、思い切って新しい方向に資金を傾斜配分していくには、やはりファンドのような資本市場の申し子的存在の介入が変化の契機になり得るのかもしれません。そういえば、三菱商事が新たにバイアウトファンドを立ち上げましたね(*)。常々、商社には世のビジネスをリストラクチャリングする力があると思っており、注目しています。

* 三菱商事2016年2月29日プレスリリース