文化人類学者としての視点

 本書で一つ注目しておきたいのが、著者テットのバックグラウンドである。イギリスを代表する経済ジャーナリストで、金融市場のエキスパートと言われる彼女だが、その前には文化人類学の博士課程に在籍していた。旧ソ連のタジキスタンで、タジク人の結婚の風習について調査するため、フィールドワークにも出かけている。当初はこの経歴を経済ジャーナリストにはふさわしくないと考え、少々後ろめたく感じていたそうだが、自分が身につけた文化人類学的なアプローチは、金融や経済を理解するためにも役立つと考えているようだ。

 本書では1章を割いて、文化人類学のアプローチを解説しているが、それを一言で表すと「インサイダー兼アウトサイダー」の視点を持つということだ。中にいながら、新鮮な眼で物事を観察し、そこにある文化的・社会的パターンに疑問を持つことの大切さを述べている。

 なお、テットはサイロの弊害を指摘しつつも、テットは「反サイロ」の立場を取っているわけではない。むしろ、複雑な現代社会に対応するには、スペシャリストの集まった「サイロは必要」という考えだ。複雑さに対応するには体系化が必要であり、そして専門化はたいてい進歩につながる。18世紀のアダム・スミスが指摘した通り、社会や経済は分業によって栄えるのだ。

 しかし、一方で専門家の集団は敵対しやすく、コミュニケーションが阻害されがちだ。本書では、こうしたサイロの問題を克服するための第一歩は、まずサイロの存在を認めること、そしてその影響についてしっかり考えることだと言う。テットのいう人類学的なものの見方、「インサイダー兼アウトサイダー」の視点は、このサイロとの戦いにも有効なのではないだろうか。