このような可能性と実践とのギャップを埋めるためには、最善の意思決定手法が、そもそもなぜ使われていないのかを知ることが重要だ。

 理由の1つは、歴史にある。ビジネスにおける意思決定は長きにわたり、科学というよりも職人芸であった。その一因として、ほとんどのマネジャーは最近まで、正確な情報へのアクセスが比較的難しかった。広く利用される意思決定ツールはわずかで、おそらくはベンジャミン・フランクリンが広めた「賛成/反対の対比表」(精神的代数)が最も一般的だが、これはほぼ250年も前に考案されたものだ。

 他にも不運な要因があった。20世紀の経済学は、「人は正しい情報さえあれば、合理的な選択をする」という理論に基づいていたのだ。この理論は一貫性がない、あるいは完全に間違っているということがいまでは証明されている。ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンにより導かれた、行動経済学の革命のおかげである。

 この結論は、意思決定のための優れた手法が使われない2つ目の理由へとつながる。それは人間の心理である。人は実際には「予想どおりに不合理」ということだ。行動経済学者たちは、私たちの認知力を歪めよりよい選択肢を見えなくしてしまう、さまざまな心理的近道(ヒューリスティック)や認知バイアス(偏見)を明らかにしてきた。

 ビジネス上のほとんどの意思決定は、協働的になされる。したがって個々人のバイアスは、集団浅慮と合意形成を経て増幅される。さらに、ビジネス上の決定の多くは「不確実性によるストレス」の下に行われるため、人は心理的苦痛を減らすためにしばしば直観や勘に頼る。意思決定はしんどい作業であるため、とにかく済ませて先に進もう、という気持ちが強く生じるのだ。

 3つ目の理由は、テクノロジーである。過去40年の間、企業向けソフトウェアは多くのマネジメント業務を自動化してきた。それはよりよい意思決定の基盤になるものの、未解決の問題も残している。

 行動経済学の見地では、マネジャーとそのチームが意思決定の向上に向けて主な問題を克服するうえで、「複雑で曖昧な情報を増やすこと」はほとんど役に立たない。結果として、SAP、オラクル、IBM、セールスフォース・ドットコムなどによるビッグデータやアナリティクスのソフトウェアを単に導入するだけでは、企業の意思決定の質はさほど向上しないのである。